山本大臣の質疑応答にみる「加計ありき」の証拠

加計学園が今治市で獣医学部を新設する事業者として認定された際、「4条件」を満たしているかは審査されていない。そして、設置認可の際も「4条件」の審査はされないことになっている。なぜなのか。それは、獣医学部新設については、特例措置の告示も、公募要項も、事業者の「4条件」充足を要件として求めていないからである。

(以下は、上記の記事の内容に基づく)

大学設置には、土地、箱もの、中身(教育プログラム、教員等)が必要になる。土地・箱ものまでは自治体が提供できたとしても、中身は事業者でなければ提供できない。となれば、自治体と事業者はセットで動くのが当然だ。例えば、特区の一つである東京圏の成田市が医学部新設を提案した際は、提案当初から国際医療福祉大学が事業者として位置づけられている*1

ところが、国家戦略特区では、自治体と事業者がセットで動いていても、最後の最後で事業者選定は公募で行うことになっている。しかし、実際に公募したところで、他の事業者に勝ち目があるだろうか。また、仮に他の事業者が選定されたとしても、その自治体や共に特例措置実現に尽力した事業者が納得するだろうか。本来、特区制度と特例的な大学設置はなじまない。そこを敢えて特区で行うのであれば、出来レースになるのは当然だ。

そう考えると、「医学部で国際医療福祉大学が選ばれたのは出来レースだ」と言ったところで、最初からわかっていたことだという感もある*2

とはいえ、実際そのとおりになれば批判されるのは当然のことだ。文科省は、その反省に立ち、獣医学部設置については、「4条件」にあるとおり「全国的見地から検討を行う」としていたのではないか。

「まずは1校」として特例的に学部新設を認めるのであれば、方針を決め、全国を対象に公募を行い、ベストの構想を持つ自治体・事業者の組合せを選ぶのが望ましい。

文科省・吉田局長も、新潟の提案を受けて行われたWGヒアリング(14年8月5日)で次のように述べている*3

我々文科省においては、25年3月末に「これまでの議論の整理~教育改革の進捗状況と獣医師養成の在り方について~」という取りまとめを行いましたが、その報告書では入学定員も含む今後の獣医師養成のあり方について、獣医師養成についての議論は特区制度になじまないため、全国的見地から行うのが前提であるということ、(中略)こういった提言がなされております。

しかし、諮問会議は、そのような文科省の意思を汲みとることなく、「全国を対象としたどこか」ではなく、「特別区域のみを対象としたどこか」で獣医学部新設を行うことを決めた(さらに、その中でも「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域」に限定している)。諮問会議が、出来レースの道を選択したのだ。

愛媛県・今治市が国家戦略特区に提案した際に加計学園が名前を伏せたのは、「公募で初めて手を挙げたのだから、出来レースではない」と言い訳するためだろう。一方、本当に事業者が未定だったのであれば、今治市の提案は、実現の可能性が極めて低いと判断されるべきものだ。事業者がいないところで、ああしたい、こうしたいと言っても、所詮中身のない空論である。

加計学園は、今治市の提案後、15年6月5日のWGヒアリングに「説明補助者」として出席している。中身の話をするために加計学園の出席が必要だったということだろう。しかし、加計学園の出席・発言については、議事録・議事要旨に記載されていない。WG八田座長は、出席はあったが、公式な参加者ではないため、と説明している*4

腑に落ちない説明だが、加計学園が公式な参加者でなかったことだけははっきりしている。

7月4日の会見で、山本内閣府特命担当大臣は、次のように話した*5

…今治市と京都府のどちらでまず実現させるかを決める必要が生じたわけでありますが、スピーディに改革を実現するという国家戦略特区の性格に照らし、昨年12月下旬から年末年始にかけて、事業の早期実現性の観点からそれぞれの提案内容の比較を議論することとしました。
具体的には、事業の早期実現に必要な専任教諭の確保の状況や、地元への就職を誘導する奨学金など地方自治体との具体的な連携水際対策の実現に必要な広域連携などの観点から議論を行った結果、昨年10月に詳細な提案があった京都府よりも、平成19年秋から長きにわたり検討を重ねてきた今治市の提案の方が熟度が高いと判断したわけであります。

まず、「スピーディに改革を実現するという国家戦略特区の性格」というのは根拠のない話だ。これは、下記の記事にある他の事業のスピード感と比較すれば明白である。議論の前提が、既に不当ということになる。

今更ながら国家戦略特区で行われた全ての事業者公募の要項から事業開始期限を拾って一覧にした。必要に応じて期限が恣意的に設定されていることは明らかだ。

さらに、山本大臣が挙げた3つの具体的論点「事業の早期実現に必要な専任教諭の確保の状況や、地元への就職を誘導する奨学金など地方自治体との具体的な連携、水際対策の実現に必要な広域連携」は、特例措置の告示の根拠となる文書に記載されていない*6。特区の基本方針によって、規制所管府省庁は、この文書(正確には、この文書を根拠とする法令(ここでは告示))にない条件を付加することはできないことになっている*7。内閣府が規制所管府でないことは承知しているが、規制を管理する文科省に許されていないことを、内閣府が独断・非通知でしてよいというわけでもあるまい。

そこを問わないとしても、3つの具体的論点の主語は「事業者」である。「事業者」が、専任教諭を確保し、地方自治体と奨学金などで連携し、他の研究機関等と広域的に連携するのだ。

京都府とセットで動いていた事業者は京産大である。京産大は、「公式な参加者」として、16年10月17日のWGヒアリングに出席している。その際、1989年に生物工学科を設置してから獣医学部に向けた構想をスタートし、2006年に鳥インフルエンザ研究センターを、2010年には動物生命医科学科を設置し、獣医学部設置の準備を進めてきたことを明らかにしている(その取組のもとで何度か文科省にも事前相談を持ちかけたが、今治同様、都度はねつけられてきたという)。獣医学部設置の検討・取組期間は、今治市よりもむしろ長い。特区への提案が初めてだっただけだ。また、当時、既に11名の獣医師も招かれていた*8

では、京産大の比較対象となった今治市の事業者は誰なのか。当然、加計学園だろうが、この時点ではまだ手を挙げていない。加計学園の専任教員数、奨学金の状況、広域連携の情報が内閣府にあったのであれば、それは、公募前に内閣府と加計学園の間に何らかの「非公式な」接触があったことを証明している。例え、直接の接触ではなかったとしても、誰かを介して加計学園の情報が提供され、その「非公式な」情報が今治選定の根拠となったのであれば、獣医学部設置特区の選定プロセスは不正だった、ということになる。

山本大臣の答弁を正当化する根拠がなければ、「加計学園の優遇はなかった」、「加計ありきではなかった」という主張は成立しない。

加計学園の認可保留および国会での疑惑追及を強く望む。

*1:一部に誤りのあった関連記事(10/16記事「加計問題 番外編 出来レースの証拠(医学部・獣医学部)」の削除に伴い、追記しました。削除した記事については、後日、修正記事をアップする予定です。

*2:※この記載は、誤りが見つかり一旦削除した10/16記事「加計問題 番外編 出来レースの証拠(医学部・獣医学部)」の内容に基づくものです。国家戦略特区における医学部・獣医学部新設が出来レースだったという見解自体は間違っているとは考えていませんので、この記載も残しておきます。修正記事は後日アップする予定です。

*3:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_s/h260805gijiyoshi01.pdf 国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)14年8月5日

*4:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/gijiroku.pdf 「国家戦略特区WG(平成27年6月5日)の議事録について」17年8月25日 国家戦略特区WG座長 八田達夫

*5:http://www.cao.go.jp/minister/1608_k3_yamamoto/kaiken/2017/0704kaiken.html 山本内閣府特命担当大臣記者会見要旨 17年7月4日

*6:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/h281109.pdf「国家戦略特区における追加の規制改革事項について」(16年11月9日諮問会議決定)

*7:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/kihonhoushin.pdf 「国家戦略特別区域基本方針」(14年2月25日閣議決定 14年10月7日、15年9月18日、17年7月7日一部変更) 第五の1②末尾参照

*8:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h28/teian/161017_gijiyoushi_01.pdf 国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)16年10月17日