再検証:特区ビズ問題(毎日新聞の報道を踏まえて)その1

「…さらに今後の課題として二点申し上げます。

…第二に、情報公開のさらなる徹底であります。これは、八田参考人や八代参考人が過去になされてきたことでありますが、過去の規制改革会議などでは情報公開の徹底を大きな武器としてきました。議論を国民の前に公開し、どちらに理があるか国民が判断できるようにして議論を進めていく。これによって、表で堂々と言えないような理由で頑張り続けることは難しくなり、結果として、規制改革の前進につながってきたと思います。」

特区制度の枠組みに関する原英史氏発言(2013年11月14日内閣委員会

6月、毎日新聞による報道で、原氏が特区ビズ(特区biz_会社案内20160803版)に協力するかたちで福岡市の美容系学校法人を直接指導していたことが明らかになった。その他、特区ビズが関与した提案のWGヒアリング開催が伏せられていた事実や、原氏の会社「政策工房」と特区ビズが一時期住所や電話番号、さらにはスタッフまで共有していたこともわかった。

報道に対し、原氏は新潮社フォーサイトで反論を繰り広げ、6月26日付けで毎日新聞社を提訴した。また7月半ばには、原氏を擁護する特区WG委員らが毎日新聞社に対する抗議文を公開した。

委員等によると、「提案者保護などの理由から、必要に応じ、非公式な打ち合わせを行うことは、効率的・効果的な規制改革の実現にとって合理的」で、「提案内容や、提案したこと自体の事実が仮に公に判明した場合、提案者が 既得権を有する者から様々な攻撃を受け、多大なる損失を被ってしまうケースも少なくない」から「打ち合わせを行ったこと自体を非公開とすることもあり得る」という。冒頭引用した原氏発言とは真逆の論理だ。

抗議文を出したWG委員有志には八田氏や八代氏も含まれる。原氏曰く、情報公開の徹底により規制改革を前進させてきた、その彼らが一転、真逆のことを合理的な規制改革の手法だと説く。原氏の弁を借りるなら、国民から議論を隠し、「表で堂々と言えないような理由で頑張り続ける」決意のようだ。こうなると、規制改革推進会議の透明性も怪しいものだ。

特区ビズや原氏のあれこれについては、当ブログでも何度か検証してきたが、今回の報道で新事実が明らかになったため、本稿からシリーズで再検証する。

報道によると、特区ビズの初提案(「外国人美容師解禁」)は、原氏が直接指導した学校法人の「代理提案」だったという。ただし、そのような学校法人の存在は特区の公開情報では確認できないし、特区ビズの「お知らせ」でも明かされていなかった。また、理美容業界でも「特区ビズの提案」として認識されていた(理美容ニュース 2015.3.19記事ほか)。

なお、この特区ビズ「お知らせ」ページは当ブログ2018.6.8記事公開後まもなくしてWebアーカイヴから削除された。そんなことができるとは知らなかったが、念のため記事公開前にページをPDF化・保存してあったので、それをアップロードした。初提案の報告は末尾にある。

さて、話を戻すと、この2018.6.8記事も特区ビズ単独の提案だったという前提で書いており、実は「代理提案」だったとなれば、話が変わってくる部分もある。例えば、特区ビズ初提案の事業実施場所が「福岡市」となっていることについて、当時は、福岡市特区の協力で所定の手続きを省いて「福岡市特区の追加提案」としたからではないかと疑っていたのだが、この見方は誤りだったようだ。

特区ビズは福岡市で創業しているが、これは福岡市創業特区の税制優遇を受けるためで、コンサル契約を結ぶ相手は福岡市内の業者とは限らない。特区ビズが他業種の事業実施場所として福岡市を指定したのであれば、福岡市から話があったか、特区ビズから福岡市に話を持ち掛けたかのどちらかだろうと考えたわけだが、今回の報道により、単に学校法人の所在地だったのだと合点した。

特区ビズ初提案が「福岡市特区の追加提案」ではなく、福岡市の学校法人の「代理提案」だったという事実は大きい。なぜなら、以下に挙げる1,2の疑惑が事実であることを証明するからだ。また、新たに3,4の問題点に気づくことにもなった。

本稿で特区ビズ初提案「外国人美容師解禁」について取り上げる疑惑および問題点は以下の項目になる。

  1. 手続き上の正当性を欠く応募である
  2. 提案前からWGヒアリングが正当な理由なく設定されていた
  3. 特区ビズは提案主体の要件を満たしていない
  4. 学校法人が特区制度を正当に活用することを妨げた
  5. まとめ

※1と2は過去記事と報道に基づく要点整理。3と4は今回新たに見えてきた点。

1.手続き上の正当性を欠く応募である

当時の提案方法としては、内閣府が告知した期間限定の提案募集に応募するか既存特区の区域会議へ随時追加提案するかの二択だった(「提案募集による提案」か「区域会議への随時提案(区域受付提案)」)。特区ビズの「お知らせ」には「地域限定美容師の創設(外国人美容師解禁)について内閣府に提案」とある。しかもそれが「福岡市の学校法人の代理提案」だったと判明したため、「福岡市区域会議への随時提案を区域会議を省いて内閣府に出したもの」(特区ビズの言葉では「福岡市特区の代理提案」?)という線は消え、自動的に「提案募集による提案」に分類されることになった。

ただし、提案のあった2015年1月16日は募集期間外に当たる。当時直近の提案募集は2014年8月29日までで、とうの昔に締め切られていた上、提案募集要項には「募集期間の期限に遅れて到着した提案は、配達事故や通信事故など理由の如何を問わず、受け付けません。」と明記されている。つまり、特区ビズ初提案は手続き上の正当性を欠き、「提案募集による提案」とは呼べないのだ。

現在は内閣府に随時提案できるが、この運用が始まったのは2016年に入ってからとなっている(当ブログ2018.4.18記事参照)。なお、原氏は、特区法案を審査する経済産業委員会(2013年11月12日)で、従来の取り組みでは、定期的に集中提案受け付け期間を設けるなど、透明性ある提案募集と選定プロセスを設けてきたとし、このやり方を国家戦略特区の第一次提案募集でも採用したと語っている。後になって随時提案を始めたのは、あれこれ不透明な提案や不透明な選定プロセスを誤魔化すためだったのだろう。

2.提案前からWGヒアリングが正当な理由なく設定されていた

先ほどの「お知らせ」によると、初提案のWGヒアリングは提案と同じ日に行われている。しかし、ヒアリングには会議室の予約など事前手続きが必要なため、特区ビズの「提案予定日」に合わせて事前にヒアリングが設定されていたとしか考えられない。このヒアリングの情報は平成26年度の「関係省庁等からのヒアリング」(関係省ヒアリングの他、有識者ヒアリング、既存特区の提案に関するヒアリングの情報があるページ)に掲載されているが、(1)にあるとおり「区域受付提案」ではないため、本来このページにあるのは不適切であり、事前にヒアリングを設定する正当な理由はない。

3.特区ビズは提案主体の要件を満たしていない

国家戦略特区基本方針は「提案主体」を「事業の実施主体となる民間事業者又は地方公共団体等」と定義している。規制改革が実現しても事業を実施する者がいなければ何の意味もないのだから、当然の要件だろう。

「外国人美容師解禁」の場合、コンサル業者の特区ビズが外国人美容師の育成や雇用に当たることはない。つまり、特区ビズ単独では「提案主体」に該当しない。実際には学校法人の「代理提案」だったとしても、公式には特区ビズ単独の提案である。

内閣府は、そんな「提案主体要件不該当」の提案を募集期間外に受理した上、二週間足らずの間に提案ヒアリングから、関係省ヒアリング、諮問会議での規制改革検討事項追加までを一気に進めた(第11回特区諮問会議・資料2)。基本方針を全く無視した制度運用であり、特区ビズの優遇だ。

ついでに加計問題を振り返ってみると、提案時、加計学園は「事業の実施主体」として名乗り出ておらず、補助金を出すだけの愛媛県・今治市のみでは獣医学部新設の提案主体に該当しない。一方、関西圏特区・京都府は実施主体である京都産業大学と共同で提案しており、提案主体要件を満たしている。事業実施場所も綾部市に決まっていた。しかし結局、実施主体不在の今治市の方が「事業の早期実現性」で優れているという不当な判断が下された。

なお、国家戦略特区の提案募集要項における「提案主体」の定義は、第2次~第4次提案募集(2014夏2015秋)までは基本方針と同じく「事業の実施主体となる民間事業者又は地方公共団体等」となっているが、2016年夏の第5次提案募集以降は「地方公共団体又は事業の実施主体となる民間事業者等」と、愛媛県・今治市のみでも「提案主体」に該当する文言に変わっている。なお、特区ビズ初提案に話を戻すと、どちらの定義を適用しても特区ビズ単独では「提案主体」に該当しない。

この点はよほど痛い所なのか、「提案主体」を「提案対象となるプロジェクトの実施に当たる民間事業者又は地方公共団体」とより具体的に定義していた第一次提案募集要項は、今や国家戦略特区のページから削除され、WARP(国立国会図書館)でしか閲覧できない。WARPでは本年3月2日保存のページまで第一次提案募集要項がダウンロードできる。

4.学校法人が特区制度を正当に活用することを妨げた

国家戦略特区基本方針は「区域会議において、随時、追加的な規制・制度改革について民間事業者等から意見聴取を行い、必要な規制・制度改革を確実に実現していく」としている。これが、(1)で触れた「区域会議への随時提案」が可能な根拠だ。

学校法人は、当時既に特区となっていた福岡市に住所があり、福岡市の区域会議にいつでも提案することができた。もしそのように特区制度を正当に活用していれば、事務局の支援を無料で堂々と受けられたはずだ。しかし実際は、特区ビズに高額なコンサル料を支払った挙句、募集期間外に「代理提案」を出すはめになった。200万円も投じながら、特区制度の正当な活用を妨げられたのだ。

原氏は、特区制度の周知活動の一環として学校法人を指導したというが、「せっかく特区内で事業をされているのだから、福岡市の区域会議に提案してみてください。」という当然の助言はしなかったのだろうか。

「代理提案」とすることを持ち出したのは、おそらく特区ビズ側だろう。前例のない「代理提案」を学校法人側が自ら思いつくとは考えにくい。仮に学校法人が名前を出したくなかったのであれば、提案者名を非公表にすればよかっただけのことだ。また当初から提案内容は「非公表」とされているが、学校法人側にそうする理由があるようにも見えない。外国人美容師関連の提案は、過去にも構造改革特区(2006年第8次提案募集)に出されており、法的根拠も規制改革上の論点も明確になっていた(厚労省8次提案最終回答)。「クールジャパンの発信」という無理矢理な目的以外「代理提案」に目新しい部分はなく、敢えて隠すような提案内容ではない。「代理提案」のメリットは、法人側には見当たらない。

一方、特区ビズ側には「代理提案」とするメリットがある。当時、国家戦略特区諮問会議には規制緩和を望む事業者が分野を問わず注目していた。そこで新規の検討事項が前触れもなく追加されれば、事業者は当然それが実現した経緯に関心を寄せる。それを実現したのが設立後間もない会社で「特区ビジネスコンサルティング」というわかりやすい名称がついている。さらには社長がWG委員の原氏と懇意にしているとなれば、多くの事業者が「特区ビズを通したら話が早そうだ」と当然思っただろう。理美容業界で同じ要望を持つ他社(者)が、「代理提案」だったとは知らず、新たにコンサルを求めてくることも考えられる。

実際、理美容ニュース(2015.3.19記事)は、「外国人美容師解禁」を特区ビズの提案と言及し、理美容業界がこの提案には前向きだと伝えた上で、政府が進める規制緩和に乗って理美容業界自らが変革を検討すべきという見解を発信している。そして、続く2015年春の提案募集では個人(東京都港区)が、また2016年夏の提案募集でもキュービーネット株式会社が同様の提案を出している。これらの提案にも特区ビズが関与していた可能性はある。

状況だけ見れば、学校法人はまるで特区ビズの隠れスポンサーのようだ。それでも規制緩和が実現したならまだ悪くない話といえたのだろうが、そうはなっていない。報道では、「外国人美容師解禁」は提案から4年半以上が経過した今も「WGで審査中」とされているが、実際は昨年6月に実現寸前で頓挫し、今も行き詰まった状態にある。

昨年6月15日、「未来投資戦略2018」が発表されたが、素案の段階では盛り込まれていた外国人理美容師関連の文言が、最終版からは全て削除されていた。この文言削除は、発表前日の第35回特区諮問会議で明かされた。理由は「反対意見が出ているため」だという。こんな急な方向転換でそれが理由というのを誰が信じるだろう。ましてやその約3ヶ月前の第34回特区諮問会議では竹中平蔵氏が「(戦略の)目玉になる話」とまで語っていたのだ。当時、特区ビズ初提案に関する不都合な事態が発生していたことを考えれば、そちらが本当の理由だろうと容易に想像できる(その事態については2018.6.8記事の後半で取り上げている)。

そして件の文言が消された「戦略2018」が発表された正にその日、特区ビズは「イマイザ」に商号変更し、特区ビジネスから撤退した(登記簿画像)。このタイミング、この状況での商号変更と特区事業撤退である。特区ビズは、自ら疑惑を認めたようなものだ。

とはいえ、その後特区ビズ問題が表立って追及されることはなく、昨年8月27日、東京都が「外国人美容師の就労」を新たに提案、昨年12月から本年5月にかけて4回の関係省ヒアリングが行われ、持ち越されていた文言記載が実行されそうな様子だった。

しかし結局、本年6月に発表された「未来投資戦略2019」のどこにも外国人美容師関連の文言はなかった。この5月に毎日新聞が原氏を取材していたことを考えると、取材後に文言記載を断念したのではないか。

今更なにをどう取り繕おうとも、国家戦略特区における「外国人美容師解禁」の議論が、特区ビズ初提案から始まったという事実が変わることはない。大手新聞社から根拠のある報道が出た以上、おそらくは今後も特区で「外国人美容師解禁」を実現するのは困難だろう。

5.まとめ

上述のとおり、特区ビズ初提案の不正は明らかだが、そもそも入管政策という国レベルの案件を特区でやろうというところから既に胡散臭い。本来、議論の場としては、全国的な規制緩和を検討する規制改革推進会議の方がふさわしいだろう。とはいえ、原氏ら数名の特区WG委員はそちらの委員も兼任している。仮に議論の場が移されても、胡散臭さが消えることはなさそうだ。

(つづく)