全く表に出てこない構造改革特区での取り扱いについて

下記の記事にあるとおり、16年11月9日の諮問会議で獣医学部新設のための制度改正を行うことが無方針で決定された時点で、加計学園は「4条件」不問となり、文科省は万策尽きた。したがって、「どうプロセスが歪められたか」を知るには、16年11月9日以前の文科省の対応を検証することが重要だ。

加計学園が今治市で獣医学部を新設する事業者として認定された際、「4条件」を満たしているかは審査されていない。そして、設置認可の際も「4条件」の審査はされないことになっている。なぜなのか。それは、獣医学部新設については、特例措置の告示も、公募要項も、事業者の「4条件」充足を要件として求めていないからである。

16年11月9日以前に文科省がどう対応していたかは、構造改革特区での取り扱いを検証しなければ、半分もわからない。これについては、何度か当ブログでも取り上げたが、記事が長すぎたり、短かすぎたり、範囲を広げすぎたりで、非常にわかりにくくなってしまった。そこで、ここに重要な点のみを、もう一度まとめたいと思う。

愛媛県・今治市が国家戦略特区に提案したのは、15年6月4日となっている。これは、国家戦略特区の3回目の集中募集期間中である。実は、この回から国家戦略特区の運営は大きく変わっている。

まず、初めて構造改革特区の提案募集が同時に行われている。それまでは、国家戦略特区の集中募集期間と構造改革特区の提案募集期間は重複していなかったが、この回から同時募集となっている。今治市が提案した国家戦略特区の3回目の集中募集期間は、構造改革特区では第27次提案募集期間に当たる*1

しかし、実態は、同時開催というよりも、構造改革特区の運営が国家戦略特区に組み込まれたというべき状況だ。窓口も1つ、提案も1つで、受付後にどちらの特区での取扱いになるかが決定される。

具体的には、この回から、国家戦略特区に提案すると、ワーキンググループ(WG)・内閣府事務局の判断で、各提案は、「(1)国家戦略特区での取扱い」または「(2)構造改革特区提案とみなす取扱い」のいずれかに振り分けられることになっている。これは、「提案の取扱い」という項目に記載されている。しかし、このこと自体、これまで一切言及がなく、全く認識されていない感がある。

国家戦略特区 - 提案の取扱い

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/boshu_h2704.html

国家戦略特区等における新たな措置に係る提案募集について(平成27年4月28日~6月5日) ページ末尾

(1)、(2)、どちらの取扱いでも、省庁との調整役は内閣府事務局である。そのような状況では、検討を求められた省庁ですら、このように取扱いが分けられていることに気づいていなかったのではないだろうか。

今治市の獣医学部新設提案についても、これまで、国家戦略特区での取扱いについてしか議論・検証されていない。

しかし、公式ページの記録や公文書から、今治市の国家戦略特区提案は、WGヒアリングの後、(2)の構造改革特区提案とみなす取扱いに振り分けられていたことがわかる。

まず、同時開催だった構造改革特区・第27次提案募集関連ページにある、15年9月25日付の「国家戦略特区*2に関する検討要請に対する各府省庁からの回答について」とあるリンク先で文科省の回答ファイルを開くと、愛媛県・今治市の獣医学部新設に関する提案への回答も含まれている。その回答欄には、所謂「石破4条件」が記載されている*3。なお、文科省が今治の提案に対して「4条件」を回答として示したことも、これまで一切説明されていない。

次に、今治市・企画課の「構造改革特別区域」についてのページをみると、「これまでの流れ」として一連の構造改革特区提案が一覧表にまとめられている*4最後の構造改革特区提案は、「第27次(2015年度)」となっている。今治市も、国家戦略特区の提案が構造改革特区・第27次提案とみなす取扱いを受けていたことを認識していた、ということだ。また、この一覧表には、計16件の提案があるが、加戸前愛媛県知事の話を含め、これまでの証言では構造改革特区提案は15回とされている。

このように、今治市の国家戦略特区提案(以下、3回目の集中募集期間だったことから【国3】提案と略す)が構造改革特区・第27次提案(以下、【構27】提案と略す)とみなす取扱いを受けていたことは明らかだが、全く表に出ていない。

しかし、加計問題の真相を解明する上で、今治市の国家戦略特区提案が構造改革特区で取り扱われていた事実は非常に重要なことである。

これまで今治市の最後の構造改革特区提案とされてきたのは【構26】提案だ。つまり、文科省によってはね返されたとされる最後の提案が【構26】提案ということになる。その【構26】提案と、【構27】提案とみなす取扱いを受けた今治市の【国3】提案(以下、これを【国3・構27】提案と略す)には、構造改革特区において、いずれも文科省から「4条件」という同じ回答が出ている。しかし、その後の政府対応は180度異なる。

今治市の【構26】提案については、15年8月25(「4条件」閣議決定の約2ヶ月後)、文科省から「4条件」が回答として提示され、同日公表された獣医学部新設に関する政府対応方針でも、検討の概要として「4条件」が示されている。「措置の分類」は、「F」(すぐには措置できないが、今後前向きに検討するもの)となっている。今治市の【構26】提案は、これをもって決着・議論終了となっている*5。「4条件」は、簡単に言えば「構想を具体化して出直せ」というメッセージである。

一方、今治市の【国3・構27】提案についても、上述のとおり、さらに1ヶ月後の15年9月25、文科省から「4条件」が回答として提示されている*6。しかし、15.9.25回答の後、構造改革特区推進本部は政府対応方針を決定していない。文科省からの回答は同じなのに、政府対応が異なるのだ。そして、この回答以降、議論は停滞する。

約1年後の16年9月16日、構造改革特区での出来事が何もなかったかのように、議論は国家戦略特区の方で再開。WGによる文科省からのヒアリングが行われる。このときも、文科省・浅野課長は「4条件」に言及し、「再興戦略の改訂版の2015年の記載も踏まえまして、提案主体による構想が具体化した場合には近年の獣医の需要の動向も考慮しつつ全国的見地から検討を行う」と述べている*7。その後、9月21日に第1回今治市分科会が開かれ、ここでも文科省は「4条件」の観点から難色を示しているが、それ以降、公式な発言機会がないまま、11月9日、獣医学部新設に向けた制度改正を行うことが決定された諮問会議を迎えている。

今治市の【国3・構27】提案に対して、文科省は、一貫して「4条件」を回答として示していたが、政府対応(すなわち諮問会議での決定)は、特区での獣医学部新設を認めるための制度改正を直ちに行うという、【構26】提案のときとは真逆の結果となったのだ。

この間の経緯について、WG座長・八田達夫氏は、15年6月30日に「4条件」が成長戦略の文章として閣議決定されて以降、文科省は1年以上検討を放置していたため、しびれを切らしたWGが16年9月に文科省を呼び出し、議論を再開させたと説明している*8。文科省が投げたボールを長期間放置し、ついには無視したのはWG・内閣府だが、構造改革特区での取扱いを隠蔽することで、「文科省は十分な検討を行っていなかった」というストーリーを作り上げたのだ。「4条件」については、文科省に挙証責任があるなどという後付けの無理な主張が繰り返されている。

「4条件」は、もともと文科省が今治市の【構26】提案に対する回答として起案したものを、内閣府が獣医学部の設置認可に係る政府方針として調整・決定し、さらに「再興戦略(改訂2015)」にも盛り込まれることとなった文言である。それは、今治の【国3】提案を受けて行われた15年6月8日のWGヒアリングにおいて、文科省職員と内閣府職員が、それぞれの立場から丁寧に説明している*9

加計問題の検証に構造改革特区での取扱いを含めれば、「4条件」の解釈や責任の所在がクリアになり、「文科省の挙証責任」という説明が全く成立しないこともよくわかる。

これらの事実が全く表に出ないまま、今まさに、加計学園による獣医師養成系大学が認可されようとしている。「丁寧な説明を続ける」と言いながら、逃げ続けている安倍首相。こんなことが許されてよいわけがない。

時間切れ終了は間近にみえる。なにかできることはないのだろうか…

*1:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/boshu_h2704.html 国家戦略特区等における新たな措置に係る提案募集について(平成27年4月28日~6月5日)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu27_1.html 構造改革特別区域推進本部ー第27次提案募集関係(平成27年4月28日~6月5日)

*2:「等」というのは、付けたし扱いの項目があるときに使う便利な語である。例えば、「テロ準備罪」のように、政府がメインに押し出したい項目は明記し、それ以外は「等」に含める。ここでは、「国家戦略特区等」の「等」に「構造改革特区」が含まれている。

*3:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu27_1.html 構造改革特別区域推進本部ー第27次提案募集関係(平成27年4月28日~6月5日)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/i_08monka.pdf 上記構造・27次募集関連ページの「各府省庁への検討要請状況等」にある「平成27年9月25日 国家戦略特区等に関する検討要請に対する各府省庁からの回答について」のリンク先ページにある文科省回答ファイル

*4:http://www.city.imabari.ehime.jp/kikaku/kouzoukaikaku_tokku/ 今治市・企画課|「構造改革特別区域」について ※第27次(2015年度)の「要望事項及び各府省庁からの対応(PDF)」とあるファイルは、上記構造・27次募集関連ページの「各府省庁への検討要請状況等」にある「平成28年12月13日 国家戦略特区等に関する再検討要請に対する各府省庁からの回答について」のリンク先ページにある文科省回答ファイルとなっている

*5:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu26_1.html 構造改革特別区域推進本部ー第26次提案募集関係http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu26/kaitou0825/i_06.pdf 上記第26次提案募集関係ページの「各府省庁への検討要請状況等」にある「平成27年8月25日 構造改革特区の提案に関する再検討要請に対する各府省庁からの回答について」のリンク先ページにある文科省回答ファイル(一覧表);http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu26/kaitou0825/k_06.pdf 同個票(今治市の提案に対する回答は、第13頁からhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu26/pdf/taiou_housin.pdf 「構造改革特別区域の第26次提案等に対する政府の対応方針」平成27年8月25日 構造改革特別区域推進本部決定 「大学獣医学部の設置の認可」についての対応方針は、「別紙3 関係府省庁において今後前向きに検討を進める規制改革事項等〔F分類〕」の冒頭にある

*6:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/i_08monka.pdf 構造・27次募集関連ページの「各府省庁への検討要請状況等」にある「平成27年9月25日 国家戦略特区等に関する検討要請に対する各府省庁からの回答について」のリンク先ページにある文科省回答ファイル

*7:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h28/shouchou/160916_gijiyoushi_2.pdf 国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨) 2016.9.16

*8:http://diamond.jp/articles/-/134825  ”「加計学園の優遇はなかった」内部から見た獣医学部新設の一部始終” 八田達夫:公益財団法人アジア成長研究所所長 2017.7.11(またはMSNニュース:「加計学園の優遇はなかった」内部から見た獣医学部新設の一部始終

*9:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_s/150608_gijiyoushi_02.pdf 国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)2015.6.8