愛媛県・今治市の応募回から始まった国家戦略特区と構造改革特区の一体化。このことについて、これまで公の場では言及がないと思っていたのだが、改めて調べたところ、あった。
愛媛県の中村時広知事は、5月24日の定例記者会見で「27年春頃に当時の愛媛県の担当課長が、新任あいさつで内閣府を訪問した際に、担当者の方から、構造改革特区の窓口を新たな制度である国家戦略特区の窓口に一体化することになったので、二つの制度が一体化した窓口に提案してはどうかなという助言を受けた」と述べている*1。
春で新任の時期であれば、4月初頭にほぼ限定される。2015年4月といえば、まさに2日、愛媛県の当時の担当課長ら職員3人が今治市職員に同行し、内閣府・首相官邸を訪問した事実が明らかになっている*2。中村知事のいう「新任あいさつ」は、このとき行われたのだろう。そこで窓口一体化の説明があった、ということになる。
今治市の出張記録によると、15年4月2日の内閣府・官邸訪問の理由は、「獣医師養成系大学の設置に関する協議」となっている。今治市の職員は度々内閣府と協議を行っているが、15年4月2日の訪問は特別なもので、前日になって急きょ官邸訪問が追加されている*3。このときに窓口一体化の説明があったのであれば、それが特別重要なことだったからだろう。
ここで正しく把握しておかねばならないのは、窓口一体化で両特区の運用がどう変わったかだ。それまでは、提案者がどちらかの特区を選択して各窓口に出していたわけだが、一体化により、特区の振り分けは、提案後にWGの検討や各省庁との折衝を踏まえて決定されることになった。中で分けるから窓口は1つでよい、ということだ。提案者に特区選択権はない*4。
ところで、中村知事は、度々「内閣府の助言」に触れているが、窓口一体化に言及したのは、5月24日の会見だけである。
この会見に至る前、中村知事は、4月12日の会見で「途中で内閣府から助言があって、国家戦略特区で出したらどうかということだったので、出したら許可が下りた」と説明していた*5。しかし、5月23日の国会・農水委*6でこの「助言」について追及があり、内閣府・藤原豊審議官が、同時期に他の自治体や事業者に対しても同様に行っていた窓口一体化の説明だった、助言は誤解だと説明した*7。要するに、別窓口だった頃とは異なり、提案者サイドでの特区の切り替えはできなくなったのだから、国家戦略特区の方に出したらどうかという助言はあり得ない、ということだ。そして、これを受けた中村知事が藤原審議官と同様に情報を整理して説明を正した、という状況だった。
ところが、この後、中村知事の説明は次のように逆戻りする。
「内閣府の助言があって、新しい国家戦略特区の方で出してみてはいかがかということだったので、出してみたら通っていった」(7月12日)*8
「助言があって国家戦略特区で出したら、今回、道が開けた」(7月25日)*9
「国家戦略特区というやり方もあるよという助言を受けて出したところ、道が開けた」(8月15日)*10
中村知事は、せっかく解いた誤解を再び招く説明を繰り返しているのだ。
同じ頃、今治市の情報公開の取扱いも変化している。国会閉会後の6月21日、今治市に対して東京新聞が国会で問題となった文書について情報公開請求しているが、市は7月5日付でそれまで開示していた文書のうち一部を全面非開示とした。その一部には、15年4月2日の東京出張の記録や報告書が含まれる*11。また、同じ7月5日、政府は、藤原審議官の併任を解除し、経産省付に戻す人事を発表している*12。
愛媛県知事がわざわざ誤解を招く説明に戻し、今治市が出張記録を一転非開示とした理由はどこにあるのか。素直に考えれば、内閣府の助言内容、つまり構造改革特区と国家戦略特区の窓口が一つになり、その共通窓口に愛媛県・今治市が提案を出したという事実に触れるのを避けるためだろう。
直前の国会では、安倍首相が加計学園の獣医学部新設計画を知ったのはいつかが焦点となっていた。安倍首相は、一旦は「構造改革特区で申請されたことについて私は承知していた」、「(国家戦略)特区に申請を今治市とともに出された段階で承知した」と答弁したものの、大臣規範抵触の疑いが浮上すると、7月末の閉会中審査では「構造改革特区と国家戦略特区を取り違えていた」と釈明し、「17年1月20日に加計学園が事業者として認定されるまで知らなかった」と答弁を訂正している*13。
安倍首相の釈明を成立させるには、二つの特区は別運用であり、構造改革特区の方では今治市と加計学園はセットという認識があったが、国家戦略特区では加計学園の名前は公募で認定されるまで出ていなかった、ということにしておかなければならない。
どちらの特区も同じ内閣府が運営しているのだから、元々そんな区別に意味はないが、窓口一つで提案も一つ、特区選択は受付後に内閣府で、となれば尚更意味はない。その上、15年6月5日の提案に関するWGヒアリングには加計学園関係者も出席している*14。また、続く6月8日の関係省庁ヒアリングでは、当時まだ生きていた構造26次提案と新たな構造27次・国戦共通提案の両方について議論もされている*15。そんな状況で26次は加計学園がセットだが、27次・国戦は違うという認識になるはずがない。
さらに、窓口一体化から運営一体化の実態までもが周知されれば、そこから今治の提案が当初は構造改革特区に振り分けられていた事実までもが露呈するおそれがある。
当ブログで何度も指摘しているとおり、今治が一体化窓口に出した提案(27次・国戦共通提案)は、当初構造改革特区で取り扱われていた。その間、文科省は今治の26次提案および27次・国戦共通提案の両方に対して同じ「4条件」を回答として示している。一方、政府対応は、26次は文科省の回答どおり、27次・国戦は文科省の回答無視、と全く整合性がない*16。
それだけではない。構造改革特区提案とみなす取扱いとなった場合、対応方針は構造改革特区推進本部で決定されるはずだが、獣医学部新設については最終的に国家戦略特区諮問会議で対応方針が決定されている。構造で文科省から否定回答が出たから国戦の方で、と取扱い特区を途中で切り替えたのだ。これは、言い逃れのできない、明らかな特別待遇である。
そして、入口と運営が一体化された構造改革特区と国家戦略特区だが、出口だけは今も別である。国家戦略特区の諮問会議で決定された対応方針は、国家戦略特区諮問会議のページで公表されている。ページ末尾の【追加の規制改革事項等について】以下にあるPDFファイルがそれだ*17。一方、一体化後に構造改革特区推進本部で決定された対応方針は、今も構造改革特区推進本部のページにしかない*18。構造改革特区に係る関係省庁の回答は、国家戦略特区のページで公表され、構造改革特区のページにはリンクが貼られているだけだが、その回答を踏まえた政府対応方針は、国家戦略特区のページにリンクすらない。
回答の方は、「国家戦略特区等に関する検討要請に対する各府省庁からの回答」と、「テロ等準備罪」と同じように肝心の部分を「等」に含めて誤魔化しているが、政府対応方針は、それまでと同じく「構造改革特別区域の提案等に対する今後の政府の対応方針」と題している。これが、出口だけ別にしている理由だろうか。
また、つい最近気づいたのだが、国家戦略特区・提案募集のトップページから、受付後に提案が国家戦略特区または構造改革特区に振り分けられる旨を記載した「提案の取扱い」という項目が消えている*19。現在行われている集中受付についての案内ページには「提案の取扱い」が記載されているが、提案は集中受付期間以外も受け付ており、随時受付分や区域受付分も構造改革特区で取り扱われる場合があるのだから、本来はトップページに明記しておくべき情報である。ここまでくると、意図的に両特区の一体化を隠しているとしか思えない。
政府が必死に隠す両特区一体化。提案前に内閣府がわざわざ愛媛県・今治市職員に説明・助言したという重要事項である。今治市・企画課の構造改革特区関連ページには構造27次・国戦共通提案も含まれているのだから、窓口通過後の構造改革特区での取扱いについても内閣府から説明があったはずだ*20。
WG座長・八田達夫氏は、“「加計学園の優遇はなかった」内部から見た獣医学部新設の一部始終”と題する寄稿において、「2015年の6月初旬になって、今治市は一般提案募集にやっと応募してきた」と説明している*21。しかし、ここは、「一般提案募集」という曖昧な表現を用いず、「構造改革特区制度と国家戦略特区制度が一体化された窓口に応募してきた」と丁寧に説明すべきところだ。それやあれ(構造改革特区での取扱い)なくして「一部始終」とは言えまい。
新たに追及すべきことは多々ある。設置認可が下りても、国会で追及し続けるべきである。
関連記事
⇓ こちらも併せて追及してほしい ⇓
*1:http://www.pref.ehime.jp/governor/teirei/kaiken290524.html 平成29年度5月知事定例記者会見(平成29年5月24日)の要旨について 更新日2017年5月25日
*2:https://mainichi.jp/articles/20170803/k00/00m/040/039000c 加計問題 愛媛県職員も官邸に同行 今治市職員の依頼受け 毎日新聞 2017年8月2日 19時31分
*3:http://inorimashow.blog.fc2.com/blog-entry-276.html 「2015年4月2日 今治市職員、内閣府と官邸へ」(FC2ブログサイト「森友・加計問題安倍答弁」by 尾張おっぺけぺー)
*4:当初は、国家戦略特区のみでの検討を希望することができた。提案者がわざわざチャンスを減らすような選択を好んでするとも思えないが、そうなっていた。今治市に関して言えば、構造改革特区で回答を得ており、そのような希望はなかったことがわかる。
*5:https://www.pref.ehime.jp/governor/teirei/kaiken290412.html 平成29年度4月知事定例記者会見(平成29年4月12日)の要旨について 更新日2017年4月13日
*6:http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/193/0010/19305230010015a.html 第193回国会 農林水産委員会 第15号 2015年5月23日
*7:高松合同庁舎で同様の説明を行ったのは15年4月27日となっている。愛媛県職員と今治市職員には、15年春、挨拶で地方創生推進事務局に訪れたた際に説明が行われたが日付は確認できないとしている。しかし、上述の中村知事の説明を踏まえれば、15年4月2日だったと推察できる。
*8:http://www.pref.ehime.jp/governor/teirei/kaiken290712.html 平成29年度7月知事定例記者会見(平成29年7月12日)の要旨について 更新日2017年7月13日
*9:http://www.pref.ehime.jp/governor/teirei/kaiken290725.html 平成29年度7月知事定例記者会見(平成29年7月25日)の要旨について 更新日2017年7月26日
*10:http://www.pref.ehime.jp/governor/teirei/kaiken290815.html 平成29年度8月知事定例記者会見(平成29年8月15日)の要旨について 更新日2017年8月16日
*11:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201707/CK2017071502000158.html 「今治市、一転非開示 官邸訪問記録や開学スケジュール」東京新聞(2017年7月15日朝刊)
*12:https://this.kiji.is/255061422497054726 「藤原審議官が経産省復帰」共同通信 2017年7月5日
*13:http://digital.asahi.com/articles/ASK7T2V52K7TUTFK004.html 【詳報】参院閉会中審査 首相釈明「特区を取り違え」朝日新聞デジタル(2017年7月25日15時16分)
*14:http://digital.asahi.com/articles/ASK844VWRK84UUPI001.html 「特区会議に加計幹部 議事要旨に出席・発言の記載なし」朝日新聞デジタル(岡崎明子、星野典久 2017年8月6日05時00分)
*15:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_s/150608_gijiyoushi_02.pdf 国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)2015年6月8日
*16:全く表に出てこない構造改革特区での取り扱いについて – 凪ぎ___和ぐ
*17:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/shimonkaigi.html 国家戦略特別区域諮問会議
*18:私があると思った場所(構造改革特区の27次以降の提案募集関連ページ)になかったため、これまで一体化後には対応方針が決定されていないと勘違いしていた。
*19:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/teian.html 国家戦略特区 規制改革事項の提案募集について ※ネットアーカイブで調べると、9月30日時点では記載がある(https://web.archive.org/web/20170930103717/http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/teian.html)。
*20:http://www.city.imabari.ehime.jp/kikaku/kouzoukaikaku_tokku/ 今治市・企画課 「構造改革特別区域」について