加計学園問題はまだ終わっていない。構造改革特区の側から検証すると、これまで認識されていなかった事実がいくつも明らかになる。不正を示す事実は、公文書にも多々残されているのだ。しかし、国家戦略特区と構造改革特区の連携や一体化を把握していなければ、それらが不正を示す事実であることには気づきにくい。この記事の内容が、真相解明に少しでも貢献することを願う。
- 1) 2つの特区制度の連携
- 2) 新潟の提案
- 3) 2つの特区制度の一体化・構造改革特区の提案とみなしての取扱い
- 4) 今治の国家戦略特区提案=16回目の構造改革特区提案
- 5) 今治の提案 vs. 京都の提案
- 6) 今治への文科省回答・政府対応方針としての「4条件」
- 7) まとめ
- 8) 追記: 構造改革特区の運営における今治の提案前と提案後の違い
なお、別記事で先に時系列表をアップしたので、併せてご確認いただきたい。
1) 2つの特区制度の連携
今治が国家戦略特区に提案するまでについて、ワーキンググループ(WG)・八田座長は次のように述べている。
やがて第二次安倍内閣になり、2013年に国家戦略特区ができた時点で、獣医学部の新設をどこかの大学が特区に申請して突破口を開いてくれればよいと我々WGは思っていたが、今治市はなかなか申請してこなかった。
(中略)
新潟市の提案は具体化が進んでいなかったことが明白になっていた2015年の6月初旬になって、今治市は一般提案募集にやっと応募してきたのである。引用元1:http://diamond.jp/articles/-/134825 または、こちら*1
一方で、この説明と矛盾する記録が残っている。
今治の提案の4ヶ月前、15年2月3日に行われたWGヒアリングの議事要旨に、次のやり取りがある。
鈴木委員:…例えば今回出てきている新潟とか今治の話は、地域的に獣医師養成系の大学がないのです。四国もありませんし、北陸も全くなくて…
牛尾課長:…特に四国の御提案については長年いただいているもので…
(中略)
八田座長:…新潟とか四国では当然必要ではないか…引用元2:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_s/150203_gijiyoushi_06.pdf
今治の提案前に、WGで今治について言及があり、かつ新潟と今治が並列扱いされている。
このやりとりを正当化する根拠はどこかにあるのか。方々調べた結果、国家戦略特区制度と構造改革特区制度が連携していることを知った。国家戦略特別区域法(第38条第1項)並びに両特区の基本方針に、相互の連携が明記されている*2。
2つの特区制度が連携しているのであれば、この時期に「今治の話」がWGで扱われていてもおかしくはない。上述の「今治の話」は、時期的に、構造改革特区・第26次募集(募集期間:14年10月14日~11月14日)の際の今治の提案(以下、今治の第26次提案とよぶ)ということになる。しかし、15 年6月まで今治の提案をまるで把握していなかったかのような八田氏の説明の方が事実とは異なることになる。
八田氏は、次のようにも述べている。
国家戦略特区における獣医学部新設に関しては、新潟市が2014年7月に最初に提案した。これは重大な案件なので、WGは5回にわたり、各省の担当官を招いてヒアリングをした(引用元1)。
新潟の提案後、最初の関係省庁ヒアリングは14年8月5日に行われている。その際、内閣府・藤原次長は次のように発言している。
新潟市としては北信越に獣医学部がないということが1つの提案の理由になっていますし、ずっと構造改革特区で言われている愛媛の今治も、四国にないということが1つの提案の理由になっています。
引用元3:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_s/h260805gijiyoshi01.pdf
新潟の提案を受け、WGで獣医学部新設の議論が始まると、即座に今治の構造改革特区提案も取り上げられている。また、上述の「今治の話」があったのは、5回目のヒアリングである。八田氏のいう5回のヒアリングは、2つの特区制度の連携下、新潟と今治が並列扱いされている中での5回ということになる。
それだけではない。最初から、WGと内閣府は、新潟の提案などそっちのけで話を進めている(これについては、2)で詳述する)。そして、新潟の提案は、この5回のヒアリングの後、フォローアップもなく議論から消え去っている。
5回目のヒアリングで言及のあった今治の第26次提案については、今治の国家戦略特区提案を受けて行われた15年6月8日の関係省庁ヒアリングの際、WGに対し、構造改革特区でのフォローアップ状況が詳しく説明されている*3(これについては、6)で詳述する)。
今治が国家戦略特区に提案する前も、提案した後も、2つの特区制度の連携により、今治の構造改革特区の提案はWGの議論の中にあった。15年6月まで今治の提案にWGが全く関与していなかったかのような説明は、事実と整合性がないのだ。
2) 新潟の提案
新潟は、14年7月18日、国家戦略特区に獣医学部新設を提案している。新潟の提案は、次の2行である。
高度な酪農・畜産技術を基盤とした水稲、施設園芸等の複合経営を促進するため、獣医師系大学・学部の新設を検討する。
引用元4:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/niigatashi/dai1/shiryou2.pdf
私もだが、この2行の意味が理解できない人は多いのではないだろうか。
文科省も同じだったようで、1回目のヒアリング中、吉田局長は新潟の提案内容について3度たずねている。1度目は誰からも返答がなく、WGが市場原理主義の議論を展開する。2度目は、内閣府・藤原次長が、「まだ構想段階」、「具体的な話になっていない」、「その問題(獣医学部の定員管理)と新潟市が考えておられますような獣医師系の養成大学というところの議論は少し切り離してお考えいただいて」と話をそらす(引用元3)。
再再度、吉田局長が、「ただ、新潟市の提案についてどう対処するかという話になるのですけれども、水稲だとか施設園芸という関係であれば、別に農学部をつくるとかでも対応は可能」と疑問を投げかけるが、藤原次長は、「そこはまさに農学部の世界ですから、そこと連携していろいろなことをやりたい、多角的な経営を行いたいという一般論だと思います。そこについて御議論いただく必要はこの場ではないのではないでしょうか。」と返している(引用元3)。
WGも内閣府も、初めから新潟の提案をよそに議論しようとしている。
当初「獣医師養成系大学・学部の新設」だった議事も、3回目のWGヒアリングからは「獣医師養成系大学・学部新設の解禁」に変更され、規制の全面撤廃ばかりが叫ばれる*4。
正に、ボトムアップの提案を口実にして規制改革をトップダウンで行おうという姿勢だ。
こうしてヒアリングを重ねる間、新潟の提案は全く具体化をみない。それにもかかわらず、八田氏は、5回目(15年2月3日)のヒアリングで、いきなり、「新潟に関しては今すぐ決めてしまいましょう」、「平成28年から」と、ほぼ1年での開学を迫っている(引用元2)。有識者会見の場で、八田氏は、今治優遇がなかったことの証拠のようなものとして、この発言に触れている*5。しかし、2行提案から1年での開学など実現するはずもなく、前後の文脈からすると、むしろ規制改革をとにかく今すぐなんとかしろというゴリ押しに新潟の名前を使っただけのようにきこえる。
新潟の提案は、議論のために利用されただけのようだ。しかし、新潟がそれを気にかけていた様子はない。
獣医学部新設について新潟市と組んでいた事業者は、開志大学(仮称)である。経営母体は、NSGグループ・学校法人新潟総合学園であり、プレゼン資料の表紙には、グループ代表の池田弘氏の名前がある*6。
池田氏は、安倍総理が本部長をつとめる、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部(14年9月設置)の民間議員である*7。同じく民間議員の坂根正弘氏は、国家戦略特区諮問会議の民間議員でもあり、池田氏とともに第1回の新潟市区域会議に出席している。八田氏は、国家戦略特区諮問会議の民間議員とWG座長を兼任している。このような繋がりのあるところで、池田氏が提案したものが軽んじられ、利用されるということは考えにくい。
池田氏から獣医学部新設について話があったのは、第1回の新潟市国家戦略特別区域会議のみである。池田氏の区域会議出席自体、2回だけとなっている。池田氏が、国家戦略特区の提案に熱心だったようにはみえない*8。
池田氏は、まち・ひと・しごと創生会議では、毎回、意見・提言している。民間議員を務めているのだから当然ではあるが、彼が主力を注いでいるのは、創生会議なのだ。提言の内容には、税制改革や外国人就労に関する規制緩和の他、地方大学の活性化も含まれる。しかし、獣医学部新設を考えていた様子はない*9。
学校法人新潟総合学園は、通常のプロセスを経て、18年4月に新潟食料農業大学を開学することが既に決定している。HPに「食、農、ビジネスを一体的に学ぶ」とあるとおり、ビジネス色の濃い大学である*10。
新潟の提案は、WGで議論を始められるよう、池田氏が形だけ提供したのではないだろうか。そんな新たな疑問がわいてくる状況だ。
3) 2つの特区制度の一体化・構造改革特区の提案とみなしての取扱い
国家戦略特区のページをみると、「提案の取扱い」として、次の説明がある。
(1)受け付けた提案は、国家戦略特区ワーキンググループ(WG)において選定し、適宜、WG委員によるヒアリングを実施します。ヒアリング対象となる提案者に対しては追って連絡いたします。
その上で、WG委員による関係府省庁のヒアリング等を実施し、関係府省庁と折衝を行い、最終的には、国家戦略特別区域諮問会議における調査審議を通じて、提案に係る対応方針を決定します。
(2)また、国家戦略特別区域法第38条第1項の規定により、WGによる検討・関係府省庁との折衝等を経て、構造改革特区に係る提案とみなして取り扱うこととした提案については、地方創生推進事務局が関係府省庁と調整を行い、構造改革特別区域推進本部で対応方針を決定します。
なお、関係府省庁との調整過程において、関係府省庁からの回答に対する提案主体からの意見を出していただく機会を設けることとしています。引用元5:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/teian.html
要するに、国家戦略特区に提案すると、(1)の国家戦略特区方式の取扱いの他、(2)の構造改革特区提案とみなしての取扱いとなることもあるのだ。
構造改革特区では、事務局が関係府省庁に対して提案の検討要請を行い、関係府省庁から回答を得るという工程を繰り返す。そして、最終の検討要請に対する回答(再検討要請回答、再々検討要請回答など)に基づいて、構造改革特区推進本部が対応を決定する。(2)のみなしの取扱いでは、WGが、提案受付後に適宜ヒアリングを行い、このような方式での取扱いとするかどうかを決める。
しかし、(2)の取扱いは、国家戦略特区制度が始まった当初から行われていたわけではない。
国家戦略特区の提案募集・トップページの下方に、「集中受付期間」という見出しがあり、「過去の募集期間」が記載されている。「近未来技術実証特区におけるプロジェクト」の募集を除くと、5回の集中募集が行われている*11。
1回目(H25)と2回目(H26)のリンクを開くと、構造改革特区に関する記載は一切ないが、3回目(H27.4.)以降のリンクを開くと、みなしの取扱いに関する記載がある。
また、「過去の募集期間」リストの下に「各府省庁からの回答」という見出しがある。ここには、「国家戦略特区等に関する検討要請に対する各府省庁からの回答について」等とあるリンクが貼られている。しかし、リンクは、3回目以降の集中募集分と随時募集分のもののみであり、リンク先で回答ファイルを開くと、構造改革特区方式の回答になっている。「国家戦略特区等」とあるのは、そのためといえる。
これらのことから、みなしの取扱いは3回目の集中募集から始まったこと、「各府省庁からの回答」は構造改革特区の提案とみなして取り扱われた提案に対する回答であること、がわかる。
「構造改革特区の提案募集について」のページでも確認してみると、第27次以降の提案募集期間は、国家戦略特区の3回目以降の集中募集期間と一致している*12。さらに、第27次~第29次の各提案募集関係ページを開くと、「お知らせ」に「構造改革特区の提案募集について(国家戦略特区の提案募集と併せて行います)」とあり、リンク先は国家戦略特区の提案募集ページとなっている。また、「各府省庁への検討要請状況等」に貼られたリンクも、国家戦略特区の「各府省庁からの回答」のリンク先と同じページに繋がっている*13。
以下の表は、両特区の提案募集期間を示している。
募集期間 | 国家戦略特区 | 構造改革特区 | |
---|---|---|---|
2013/ | 8/12 – 9/11 | 第1回集中受付期間 | |
10/15 – 11/15 | 第24次提案募集 | ||
2014/ | 3/14 – 4/14 | 第25次提案募集 | |
7/18 – 8/29 | 第2回集中受付期間 | ||
10/14 – 11/14 | 第26次提案募集 | ||
2015/ | 4/28 – 6/5 | 第3回集中受付期間 | 第27次提案募集 |
10/6 – 10/30 | 第4回集中受付期間 | 第28次提案募集 | |
2016/ | 6/17 – 7/29 | 第5回集中受付期間 | 第29次提案募集 |
表のとおり、14年度までは、国家戦略特区と構造改革特区の提案募集期間は重複していない。おそらく、この頃は、国家戦略特区でWGによるヒアリング対象とならなかった提案については構造改革特区に再提案してもらうような形で、両特区が連携していたのではないだろうか。
しかし、15年度からは同時募集となり、WGが1つの提案をどちらの特区での取扱いとするかを決める仕組みになっている。
ところで、国家戦略特区のパンフレットに、次の記載がある。
「国家戦略特区」の他に、規制改革のための特区には「構造改革特区※」もあります。一体的に運営していますので、別々の提案は必要ありません
引用元6:
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/tocguide.pdf
そういわれてみると、確かに、15年度からの運用は、単なる連携に留まらず、一体的といえるものだ。両特区での同時募集となり、構造改革特区の提案は「みなしの取扱い」という形で国家戦略特区に取り込まれ、検討要請等に対する回答も国家戦略特区のページに集約された。構造改革特区の第27次以降のページには回答ファイルへのリンクが貼られているだけだ。
しかし、上記のパンフレットには16年1月末時点でのデータが含まれている。3回目から5回目まで運用の実態には大差がないのに、パンフレットが発行されたのは、16年2月以降ということになる。提案募集のページで一体的運用についての記載があるのも、5回目だけである*14。
元々、私はこのパンフレットを見て、「別々の提案は必要ありません」の一言に驚き、いろいろ調べていくうちに、両制度が連携していることやみなしの取扱いについて知ったのだ。それを考えると、やはり両制度の一体的運用というのは、できれば隠しておきたい事実なのかもしれない。
4) 今治の国家戦略特区提案=16回目の構造改革特区提案
今治は、15年6月4日に国家戦略特区に提案している。国家戦略特区の3回目の集中募集・構造改革特区の第27次提案募集の際である。今治の提案は、(1)、(2)、どちらの取扱いとなったのか。
今治の提案を受け、WGは、6月8日に文科省・農水省からヒアリングを行っている。しかし、その後は、翌16年の9月16日まで、1年3ヶ月以上の間、関係省庁からヒアリングを行っていない。
一方、構造改革特区・第27次提案募集関係ページをみると、15年9月25日付で各府省庁からの回答が出されている。リンク先で文科省からの回答を開くと、今治の提案に対する回答も含まれている(国家戦略特区の提案募集ページにあるリンクからも同じ回答ファイルを開くことができるが、日付の記載はない)*15。
これらのことから、今治の国家戦略特区提案は、当初、(2)のみなしの取扱いを受けていたと判断できる。
実際、今治市の構造改革特区関連のページを確認してみると、「構造改革特別区域これまでの流れ」として、「第27次(2015年度)」の提案も一覧表に含まれている。提案を数えると16ある*16。加戸前愛媛県知事の証言を含め、今治の構造改革特区提案は15回という話だったが、実際は、みなしの取扱いによって今治の16回目の構造改革特区提案(以下、第27次提案(みなし)とよぶ)が存在したのだ。
八田氏は、獣医学部新設に関する文科省の対応を次のように批判している。
文科省は、2015年度内に獣医学部新設を検討すると約束しておきながら、ずるずると2016年度に入っても検討に決着を付けようとしなかった。閣議決定に従わなかったのである。
(中略)
特区側としては、2016年度中には告示整備や区域会議認定を行うべきだと考えていたので、業を煮やして、2016年9月16日に特区WGでヒアリングを行ったが、文科省は十分な検討をしていないことが明らかになった(引用元1)。
しかし、実際は、上述のとおり、15年9月25日に今治の第27次提案(みなし)に対して文科省から検討要請回答が出されていたのだ。
構造改革特区では、第26次までは検討要請に対する各府省庁からの回答があると、数週間のうちに再検討要請が行われてきたのだが、第27次提案(みなし)については、15年9月25日の検討要請回答から16年12月13日の再検討要請回答まで、実に1年3ヶ月近くの開きがある*17。これは、事務局が第27次提案の再検討要請を先延ばしにしていたか、あるいは回答の公表を先延ばしにしていたことを示唆している。つまり、決着を引き延ばしていたのは事務局の方なのだ。
それだけではない。同じ16年12月13日に、第27次提案の再検討要請回答だけでなく、第28次提案の再検討要請回答および第29次提案の検討要請回答も同時に公表される事態となっている*18。国家戦略特区・提案募集ページの「各府省庁からの回答」のリストやリンク先では回答の公表日の記載はないが*19、構造改革特区・提案募集ページの情報によると、これらの回答は全て同じ日に公表されているのだ。
なぜ、このような異例の事態となったのか。
1つの要因としては、構造改革特区の仕組みが考えられる。構造改革特区では、最終の検討要請への回答が出されることが区切りとなり、さらなる検討のためには、最終回答の前後の募集で改めて提案しなおさなければならない。第28次提案募集は15年10月6日からとなっており、第27次提案の再検討要請をすぐに行えば、それが最終の検討要請ということになる。再検討要請に対して文科省が同じ回答を返せば、今治の第27次提案はそこで区切りがついてしまう。そうなれば、今治は新たに提案しなおさなければならず、文科省との折衝も改めて必要になる。(修正は、意味がわかりにくいため。次の募集の後に最終回答が出ることもあるため、このように記載したが、前の募集という意味にとられるおそれがあるかもしれないので。)
ただ、今治以外の第27次提案のことも考えれば、そこまで先延ばしにするつもりはなかったのではないか。当初の予定では、WG・事務局は、15年度末をタイムリミットに設定し、そのタイミングで他の第27次提案について再検討要請を行いつつ、今治の提案については「次の手」を打つことになっていたのではないだろうか。その「次の手」は、獣医学部新設の議論を国家戦略特区に戻すことだったのではないか。
しかし、そんな中、予期せず、15年度末(16年3月24日)になって京都が獣医学部新設を追加提案してきた。まず京都の提案をどう取り扱うのかを判断しなければならなくなり、「次の手」が保留となったため、第27次提案の再検討要請も当初の予定以上に先延ばしにされることになったのではないか。
国家戦略特区基本方針には、「経済社会の構造改革の推進及び地域の活性化に資すると認めるものについては、構造改革特別区域法第3条第4項に規定する提案とみなして、その実現に向け、同法及び構造改革特別区域基本方針に基づき、必要な対応をするものとする。」とある*20。
「経済社会の構造改革の推進及び地域の活性化に資すると認め」、今治の獣医学部新設提案をみなしの取扱いとしたのであれば、京都の獣医学部新設提案も同じようにみなしの取扱いとするのが公平・公正な対応といえよう。しかし、みなしの取扱いとすれば、検討を文科省に委ねることになる。京都の提案が今治の提案と同じように否定される可能性は高いが、仮に獣医学部新設が認められたとして、どこに誰が獣医学部を設置するのかは文科省の判断となる。
結局、京都の提案はみなしの取扱いとされず、獣医学部新設の議論は、諮問会議が意思決定権を持つ国家戦略特区に戻された。これにより、今治の提案も(2)から(1)の取扱いに切り替えられたことになる。
こうして、16年9月16日、約1年3ヶ月ぶりにWGで獣医学部新設の議論が再開する。このとき、文科省・浅野課長は、「4条件」の最初の3つの条件について、「そういうものが今後整っていく中で、きちっとこちらとしても検討を進めていきたいと考えている」と述べている。WGは、今治の話は出しているが、京都には言及せず、早急に新設を検討するよう強く求めている。京都については、議論の終わりに、内閣府の藤原審議官が、「京都のほうからも出ていまして、かなり共通のテーマで大きな話になっております」と述べただけである*21。
その後、9月21日に第1回今治市分科会で再び文科省・浅野課長が「要件について、きちんと満たされるということを確認することが重要」と念を押している。しかし、これが公式には文科省の最後の発言機会となり、その後は、9月30日に第2回今治市分科会(他の特区と合同)、10月4日に第24回国家戦略特区諮問会議、10月17日に京都府・京産大ヒアリングと、特例措置の決定に向けた形作りが急展開していく。そして突如、11月9日の第25回国家戦略特区諮問会議で獣医学部新設のための意思決定がなされる。
11月9日、意思決定の場で、山本大臣は「関係各省と合意が得られた」と発言しているが、この発言を裏付ける文書は存在しない。諮問会議の意思決定文書があるのみである*22。会議に同席していた松野文科大臣も、「文部科学省におきましては、設置認可申請については、大学設置認可にかかわる基準に基づき、適切に審査を行ってまいる考えであります。」としか言っていない*23。意思決定の前に文科省の合意があったことを示す客観的根拠は存在しないのだ。
加えて、文科省は、「281108加計学園への伝達事項」と題されたファイルが添付された16年11月8日付のメールを残している*24。内容は、加計学園の構想を不十分だとして、さらなる検討を求めるもので、意思決定の前日にあってなお文科省が合意していなかったことを示している。
この文書と関連メールは、実施主体として名前の出ていないはずの加計学園に文科省が直接連絡しているため、「加計ありき」の証拠として重要視されているが、内容的には、文科省が最後まで納得していなかったことを示す証拠と見るべきである。仮に文科省も「加計ありき」で動いていたのであれば、意思決定の前日にわざわざ加計学園を名指しした上で構想が不十分だと騒ぎ立てる理由はない。
そもそも、文科省は、今治の最後の提案で加計学園の名前が出ていなかったことに気づいていたのだろうか。15年6月8日のWGヒアリングでは、今治の第26次提案(15回目の提案)と国家戦略特区の提案(16回目の提案)の両方に言及があった上、その後、16回目の提案は、構造改革特区提案とみなしての取扱いとされたのだ。特に説明がなければ、それまでと同じく加計学園が実施主体だと当然思っただろう。「今治」としか言われていない場面で、文科省が「加計学園」と解釈して動いたとしても何ら不思議はない。
5) 今治の提案 vs. 京都の提案
今治の提案について、八田氏は次のように述べている。
2016年9月21日の「第1回今治市分科会」における、加戸守行・元愛媛県知事による説明は、自身が知事時代の鳥インフル対策で経験した研究機関不足の必要性を訴え、説得的だった。2016年9月30日の広島県・今治市特区会議では、今治市における獣医学部新設に関する詳細な提案を示している(引用元1)。
しかし、今治の提案は、獣医師養成系大学の設置であり、大学院研究科は含まれていない。主たる目的は、獣医師の養成なのだ。たとえ実際に四国で研究機関が不足していたとしても、今治の獣医学部はそれを補うようなものではない。
なにより、9月21日に加戸氏がプレゼンに用いた資料は、わずか2枚だ。見出しやクレジットを除くと、実質1枚、800字少々である。八田氏が「詳細な提案」といっている9月30日のプレゼンは、他の特区との合同会議だったためか、9月21日の簡易版であり、プレゼン資料も、「(平成28年9月21日開催 今治市分科会(第1回)配布資料4 加戸特別顧問提出資料)」とあるとおり、9月21日の資料2枚を1枚にまとめ、枠外に「追加の規制改革事項」という大見出しをつけただけである*25。そもそも、この合同会議の出席者に八田氏の名前はない。会議に出席していないのに、根拠も示さず、「詳細な提案」だったと主張しているのだ。
加戸氏の2回のプレゼンで提示された「資料4」は、末尾に「4条件」が引用されていることから、「4条件」の観点から作成されたと思われるが、加戸氏自身が「基本コンセプトについて説明させていただきます。」と述べているとおり、具体的な構想といえるものではない*26。また、加戸氏は、既存の大学・学部との関係について、「アドバンス教育を実現するため、必要な教員数を確保することが必要」と述べている*27。しかし、「4条件」の「既存の大学・学部では対応が困難な場合」という部分は、教員数の話ではなく、新しい分野の新しい構想の中身についての話ではないだろうか。近年の需給バランスとして示した試算も、数式にすれば、割り算1つと引き算1つで終わり、新しい分野における需要を示すものではない。
9月21日の加戸氏のプレゼンについて、八田氏は、「物事を提案するときにはこうしなければいけないというモデルのようなものでした。(中略)これは非の打ちどころのないご説明だったと思います。」と称えている(16.9.21 議事要旨)。
一方、京都の提案については、八田氏は次のように述べている。
2016年10月17日に、京都が具体案をWGに提案してきた。それまでは3月に関西区域会議において概要を1枚の紙で提案していただけだったが、この日、初めて具体的な提案がなされた(引用元1)。
京都の具体案提出が遅かったかのような説明だが、国家戦略特区では、受け付けた提案の中からWGが選定したものについてヒアリングを行い、議論・検討する。提案後、提案者は、WGからの連絡待ち状態におかれるのだ。提案が1枚だけというのは、7つの特区の合同区域会議におけるプレゼン資料だったからだろう。
この合同区域会議には、民間議員として出席していた八田氏の他、WG委員は3名出席しているが、京都の提案がどこまで具体化しているのか誰も確認しておらず、コメントも一切ない。その後も、WGは、京都から詳しいヒアリングを行わず、10月17日まで7ヶ月近く放置していたのだ。
WGは、新潟の2行提案を受けた際には文科省から幾度もヒアリングを行っているが、京都の提案については文科省との折衝も一切行っていない。10月17日の京都からのヒアリング後も、文科省に対して何ら働きかけはしていない。
京都の提案は、獣医学部の新設と大学院研究科の設置だった。京産大のプレゼン資料は、本文20ページからなる。需要の立証のために関連企業や学生を対象に複数の独自調査を行った結果と併せ、先端研究分野の進展状況や既に進行している具体的取組、地の利等を挙げながら、他の大学・学部との差別化を図ろうとしている。京産大の構想が「4条件」を満たしているかどうかは別として、「4条件」の観点から入念に構想を練ったことはわかる。
しかし、加戸氏のプレゼンを褒めちぎった八田氏は、京産大のプレゼンの内容についてはほとんどコメントしておらず、「非常に説得的な話」、「大変説得的なお話」と言ったのみだ。そして、「あとは戦略」と後押しするような素振りを見せながらも、フォローアップは一切していない*28。
結局、「4条件」の観点から京都の提案が文科省によって検討されることはなかった。
文科省は、意思決定の前日に加計学園のみに連絡したことを追及された際、京産大からも問い合わせがあれば同じように対応していたと釈明している。この発言の真意は、京産大が文科省にとって検討対象として提示されたことはなかったということではないだろうか。
6) 今治への文科省回答・政府対応方針としての「4条件」
「4条件」の解釈については、挙証責任の所在も含め、意見が分かれている。
八田氏は、次のように述べている。
WGとしては、獣医学部新設を特区改革項目とする方向性を決め、その第一歩として、「日本再興戦略(改訂)2015」に盛り込むことを目指すこととした。
その結果、2015年6月末の「日本再興戦略(改訂)2015」に、「2015年度中における獣医学部新設の検討」を成長戦略として入れて閣議決定することができた。これは必ずしも特区でなくてもよいから、何らかの方法での新設の検討を文科省に義務付けたものだ(なお、新設に当たっては、「石破4条件」が付けられた。これは、検討期限を切った上で、検討の際の留意事項を記載したものである)(引用元1)。
しかし、「4条件」は、八田氏が主張するような性質のものではない。言い方を変えると、WGの要望は新設の検討を文科省に義務付ける文章だったのだろうが、そのような文章にはならなかったのだ。
「4条件」は、今治の構造改革特区・第26次提案に対する再検討要請回答として文科省が起案したものであり、その最終版が閣議決定によって成長戦略の文章としても採用されたのだ。原案については、今治の国家戦略特区の提案を受けて行われた15年6月8日のWGヒアリングで詳しく説明されている。なお、原案には「既存の大学・学部では対応が困難」という文言が含まれていないため、以下、原案を「3条件」と称する。
15.6.8議事要旨から、文科省・北山課長の発言の「3条件」に係る部分を引用する。
…構造改革特区の26次提案の対応方針で文部科学省から回答させていただいておりますが、具体的には、既存の獣医者の需要については、農林水産省さんに確認をしたところ、現時点では獣医師の需要に大きな支障が生じるとは考えにくいとのことでございました。このため、愛媛県・今治市が獣医師系大学を新設したいということであれば、その既存の獣医師でない構想を具体化していただき、ライフサイエンスなど獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要を明らかにしていただく必要があると考えております。
文部科学省といたしましては、愛媛県・今治市より、既存の獣医師養成でない構想が明らかになり、そのライフサイエンスなど獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになった場合には、近年の獣医師の需要の動向を考慮しつつ、特定地域の問題としてではなく、全国的見地から検討を行う必要があると考えています。
(中略)まず、提案者のほうで既存の獣医師養成なり構想※を具体化していただく必要があって、下村大臣からもそのようにするようにということでご指示をいただいているところでございます(※「既存の獣医師養成でない構想」の誤記と思われる(筆者注))。
(中略)成長戦略の案文についてでございますけれども、今、申し上げたとおりでございまして、獣医系大学の新設、定員増につきましては、全国から入学者が集まって全国に卒業者が輩出されているという状況でございます。そのような状況でございますので、獣医系大学の新設につきましては、近年の獣医師の需要の動向、分野別、地域別の獣医師の偏在なども踏まえまして、特定地域の問題としてではなく、全国的見地から検討しなければならず、国家戦略特区等の特区制度を活用した対応は極めて困難であると考えております。引用元7:
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_s/150608_gijiyoushi_02.pdf
この後、WG委員等から確認や質問があり、北山課長は次のように続けている。
…愛媛県今治市さんから出されてきている項目でございますけれども、大きく①のところで新しい分野への対応ということが書かれているところでございますけれども、これまでの獣医学教育ではなく、新しい分野の対応ということで言われておりますが、まず、公共獣医事を担う第三極の国際水準の大学獣医学部ということで、いろいろなことをやるということが言われております。例えば、動物由来新興感染症の統御ということ、あるいは越境感染症の貿易ということでございますが…(引用元7)
ここで北山課長が言及している「愛媛県今治市さんから出されている項目」は、今治の提案における具体的事業の実施内容のことである。また、第26次提案ではなく、国家戦略特区の提案の内容を指していることが、下線部とそれぞれの事業実施内容を比較するとわかる*29。
北山課長は、さらに、WG委員の質問に答える形で、今治が新たに提案した事業の内容が既存の獣医師養成の範囲内であることを詳しく解説している。つまり、今治の国家戦略特区の提案は、早々に文科省から「3条件」の観点から不十分だと判断されていたのである。
そして、このとき示された文科省の回答である「3条件」に「既存の大学・学部では対応が困難」という条件が閣議決定により追加されて「4条件」となり、「日本再興戦略(改訂)2015」(15年6月30日閣議決定)に盛り込まれたのだ。
この議事要旨には、もう1つ「4条件」についての重要な情報が含まれている。それは、内閣府・富田参事官が配った資料である。これは、文科省から今治への回答としての「3条件」を内閣府が政府の対応方針として調整しているもので、富田参事官は次のように説明している。
…頭に「別表3 関係府省庁において今後前向きに検討を進める規制改革事項等〔F分類〕」と書いてある紙でございますが、これは昨年の秋でございますが、構造改革特区の26次提案と言われるものでございます。そのときに愛媛県の今治市からの大学の獣医学の設置の要請が構造改革特区でなされてございまして、それに対する対応方針の案として文部科学省に求めたところ、今、こういう案をいただいているという状況でございます。まだオーソライズされたものではございません(引用元7)。
このときの議事要旨は公開されているが、富田参事官が配った資料は公開されていない。しかし、オーソライズされた最終版は、構造改革特区の第26次募集関連ページで「構造改革特別区域の第26次提案等に対する政府の対応方針」として公開されている。最終版には、同じく「別表3…〔F分類〕」とあり、「検討の概要」に「4条件」の文言がそのまま記載されている*30。「今後前向きに」というのは、「すぐには措置できない」という意味であり、何らかの理由ですぐに措置できないが、前向きに検討する規制改革事項が「〔F分類〕」となる*31。
藤原次長は、この文書について、「最終的には総理が本部長であります構造改革特区本部のほうで対応方針として決定します。(中略)政府決定になり得る文章を文科省さんからいただいている」と述べている。
つまり、「4条件」は、今治の提案を受け、獣医学部新設を認める特例措置について、どのような場合にどのような観点で検討していくのかを文科省が今治への回答として起案し、最終的に政府の対応方針としてオーソライズされた文章なのだ。
成長戦略の文章という側面においては、告示の規制によって本来認められない獣医学部の新設を成長戦略として特例的に認めるための検討に入る際、満たされるべき前提条件を示している、と解釈できる。
WGが、この文章の内容に納得していなかったとしても、政府決定である以上は、それに従う立場にあったはずだ。しかし、このヒアリングで今治の国家戦略特区提案の構想が不十分だと既に指摘されていたにもかかわらず、そのままみなしの取扱いとしたのである。政府決定に従わなかったのは、WGの方なのだ。
それにしても、WGはなぜ今治の提案をみなしの取扱いとしたのだろうか。新潟の提案を受けたとき、5回のヒアリングで規制の全廃を求めて文科省に厳しく攻め込んだWGが、待望の今治の提案を受けた際には、1回のヒアリングを行っただけで構造改革特区に対応を譲る、というのは理解しがたい。
原委員も、このヒアリングの場で「挙証責任がひっくり返っている。」、「…根本的な議論が残っている状態なので、そこはまた引き続きやらせていただく必要があると思いますが、(中略)もう少し建設的な文章調整をしていただけるといいのではないか」と発言しており、文科省の案文をそのまま受け入れる気がなかったのは明白だ。
状況的に判断すると、みなしの取扱いとなったのは、WG以外の誰かの指示によるものだったのではないか。
15年6月8日のWGヒアリングでの文科省の説明どおり、今治の第26次提案の再検討要請回答(15年8月25日)にも第27次提案(みなし)の検討要請回答(15年9月25日)にも、「4条件」が回答欄に記載されており*32、いずれの提案についても、「4条件」の観点から不十分だという文科省の見解は変わっていない。
今治の国家戦略特区提案をそのまま構造改革特区へスライドさせれば、このような回答となることは当然わかっていたはずだ。それにもかかわらずみなしの取扱いとしたのは、文科省の見解が変わることを期待してのことではなく、みなしの取扱いとして放置し、且つ、みなしの取扱い自体を隠ぺいすることで、文科省が閣議決定に従わず、年度内の検討をしなかったという説明が成立する状況を作るためだったのではないだろうか。
7) まとめ
国家戦略特別区域基本方針には、みなしの取扱いに係る次の記載がある*33。
②規制の特例措置の追加に関する基本的考え方
(新たな規制の特例措置の追加)
(中略)追加の規制の特例措置の検討をスピード感をもって進め、確実に実現につなげていくものとする。当該検討に際しては、国家戦略特区における規制の特例措置として検討すべきもののほか、法第38条第1項の規定に準じて構造改革特区制度の提案として検討すべきもの、また、全国規模の規制・制度改革として規制改革会議等との連携により検討すべきもの等の分類も併せて実施することで、規制・制度改革の実現に向けた選択肢を広げ、実現の可能性を高めていく。
つまり、提案をみなしの取扱いとするのは、規制改革に向けた検討をスピーディに進め、実現につなげていくためだといえる。
しかし、今治以外の第27次提案は、みなしの取扱いとされたことにより、再検討要請(回答)が長く放置されていた。これは、基本方針に反する対応だ。
一方、今治の第27次提案は、みなしの取扱いから国家戦略特区に戻されるという特別扱いを受けている。
さらに、同じ獣医学部新設に係る提案でありながら、京都の提案は、今治のようにみなしの取扱いとはされなかった。このように整合性のない対応は、少なくとも獣医学部新設に関しては、「構造改革特区制度の提案として検討すべきものの分類」が恣意的に行われたことを示している。また、提案主体によって異なる対応が取られたことは、WGへの根回しがどこかであったことも示唆している。
文科省が起案し、今治の提案に対する対応方針として政府決定された「4条件」については、文科省が挙証責任を果たさなかったという、事実とは真逆の話が作り上げられた。これは、政府側の主張を正当化する材料にもなっている。
みなしの取扱いを明らかにしなければ、これらの事実は表面に出てこない。真相解明には、構造改革特区を含めた検証が不可欠である。
もうすぐ始まる予定の臨時国会では、是非新たな視点・新たな論点で疑惑を追及し、真相を解明してもらいたい。冒頭解散など許してはいけない。
8) 追記: 構造改革特区の運営における今治の提案前と提案後の違い
構造改革特区の提案の取扱いを、今治の提案前と提案後で比較すると、いろいろな違いに気づく。
第26次提案までは、各関係省庁からの最終回答(再検討要請回答または再々検討要請回答)の公表と同日に政府の対応方針が決定されている。また、例えば、第26次提案の場合、対応方針が決定された規制改革項目(提案)は、21件ある。
一方、第27次提案では、検討要請回答が15年9月25日、政府の対応方針決定が16年3月18日、そして最終回答である再検討要請回答が16年12月13日に公表されている。第27次提案のうち、16年3月18日に対応方針が決定された規制改革事項は、1件のみである*34。
第28次提案の募集期間が15年10月6日に開始されたことを考えると、第27次提案については、15年9月25日の検討要請回答が実質的には最終回答だったといえよう。しかし、同日に政府の対応方針を決定すれば、今治の第27次提案(みなし)は、そこで終了となるため、年度末に近い16年3月18日まで政府の対応方針が決定されなかったのだろう。そして、今治への9月25日の回答には第26次提案のときと同じく「4条件」が示されたが、この対応方針には盛り込まれていない。第26次提案に対する政府対応と整合性がない。
そう考えると、やはり、15年度末時点で今治の第27次提案(みなし)を国家戦略特区に戻す計画になっていたのではないか。今治市と内閣府は、正に16年3月18日に協議をしている。そこで、その計画の最終確認をしたものの、その6日後の京都の追加提案によって計画の変更を余儀なくされ、4月初めから6月初めまで更に3度の協議を重ねることになったのではないか。
第28次提案と第29次提案については、各府省庁からの回答は公表されているが、政府の対応方針は未だ決定されていない。みなしの提案については、事務局が関係府省庁と調整を行い、構造改革特別区域推進本部で対応方針を決定するはずだが、どうなっているのか。
また、国家戦略特区では、年に2回程度集中受付期間を設けるとしておきながら、17年度には、未だ集中受付は実施されていない。第28次提案と第29次提案の政府対応方針が決定されていない状況で、新たに集中受付を行うことは難しいということか。
私には、今治の提案1つのために、第27次以降の構造改革特区提案(みなし)が後回しにされたようにしかみえない。募集も回答も国家戦略特区のページに集約されたのは、両制度を一体化して新たな枠組みで運営する意図を感じるが、今治の提案絡みの不都合な真実を隠しておくためには、それもままならないのではないだろうか。
*1:加計学園の優遇はなかった」内部から見た獣医学部新設の一部始終ダイヤモンドオンラインの会員登録をしていない場合は、MSNニュースでも同じ記事が読める。
*2:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/kihonhoushin.pdf「国家戦略特別区域基本方針」第14~15頁;http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/kettei/140425/siryou.html「構造改革特別区域基本方針の一部変更について」(14年4月25日閣議決定)
*3:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_s/150608_gijiyoushi_02.pdfWGヒアリング議事要旨(15年6月8日)
*4:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_s/h26.html「ヒアリング事項」の欄参照(2014年8月5日、同年8月19日、同年12月26日、2015年1月9日、2015年2月3日)。
*5:https://www.youtube.com/watch?v=jtZyqqNpaOw「(全録)加計学園・獣医学部新設 有識者が会見 その1」FNNsline (51:58 ~)
*6:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/niigatashi/dai1/shiryou5.pdf 新潟市第1回区域会議・新潟経済同友会資料
*7:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/honbukaigou/h26-09-12.html 「第1回まち・ひと・しごと創生本部会合 議事次第」(14年9月12日) 資料4参照
*8:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/niigatashi.html 新潟市 国家戦略特別区域会議 各回の議事要旨参照
*9:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/index.html#an2 第1回(2014年9月19日)~第12回(2017年5月29日)
*10:https://www.nafu.niigata.jp/ 新潟食料農業大学HP
*11:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/teian.html 国家戦略特区・提案募集トップ
*12:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/teianbosyu.html 「構造改革特区の提案募集について」トップページ
*13:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu27_1.html 第27次提案募集関係ページ http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu28_1.html 第28次提案募集関係ページ http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu29_1.html 第29次提案募集関係ページ
*14:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/boshu_h2806.html
国家戦略特区5回目の集中募集(16年6月17日~7月29日)関連ページ
*15:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu27_1.html このページのH27.9.25付のリンク先の国家戦略特区ページで文科省のファイルを開くことができる。リンク先のページには日付がないため、構造改革特区の該当ページを脚注として記載している。
*16:http://www.city.imabari.ehime.jp/kikaku/kouzoukaikaku_tokku/ 今治市・企画課 ”「構造改革特別区域」について”のページ
*17:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu27_1.html 第27次提案募集関係ページ
*18:*13(構造改革特区・第27次~第29次提案募集関連ページ)参照
*19:*11(国家戦略特区・提案募集ページ)参照
*20:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/kihonhoushin.pdf 国家戦略特別区域基本方針
*21:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h28/shouchou/160916_gijiyoushi_2.pdf WGヒアリング議事要旨(16年9月16日)
*22:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/h281109.pdf 「国家戦略特区における追加の規制改革事項について」(16年11月9日 国家戦略特区諮問会議決定)
*23:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/dai25/gijiyoushi.pdf 第25回国家戦略特別区域諮問会議 議事要旨
*24:http://inorimashow.blog.fc2.com/blog-entry-274.html ”2016年11月8日 文科省内メールと「加計学園への伝達事項」” (「森友・加計問題安倍答弁」 尾張おっぺけぺーさんのブログ)参照。この文書については、17年7月24日の衆議院予算委員会で松野文科大臣が存在を認めている。その件に関する東京新聞の記事は、こちら:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201707/CK2017072502000117.html
*25:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/hiroshimaken_imabarishi/imabari/dai1_shiryou4.pdf 9月21日 加戸氏プレゼン資料 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/160930goudoukuikikaigi/shiryou3.pdf 9月30日 加戸氏プレゼン資料
*26:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/hiroshimaken_imabarishi/imabari/dai1_gijiyoushi.pdf 今治市 分科会(第1回)議事要旨
*27:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/160930goudoukuikikaigi/gijiyoushi.pdf 東京圏(第13回)・福岡市・北九州市(第8回)・広島県・今治市(第2回)国家戦略特別区域会議 合同会議 議事要旨
*28:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h28/teian/161017_gijiyoushi_01.pdf 国家戦略特区WGヒアリング(京都府・京産大)議事要旨(16年10月17日)
*29:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h27/150605imabari_shiryou03.pdf今治の国家戦略特区提案の「具体的な事業の実施内容」参照 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu26/kaitou0825/k_06.pdf今治に対する再検討要請回答に記載の「具体的事業の実施内容」参照
*30:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu26/pdf/taiou_housin.pdf 「構造改革特別区域の第26次提案等に対する政府の対応方針」(15年8月25日)
*31:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu26/kaitou0825/index.html 下方、【「措置の分類」について】参照
*32:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu26/kaitou0825/i_06.pdf「08 文部科学省(構造特区第26次 再検討要請回答)」(15年8月25日)一覧表、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/boshu26/kaitou0825/k_06.pdf同個票; http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/i_08monka.pdf「08(文部科学省)国家戦略特区等提案検討要請回答」(15年9月25日)
*33:*20(国家戦略特別区域基本方針)参照
*34:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/pdf/taiou_housin.pdf 構造改革特別区域の第27次提案に対する政府の対応方針」構造改革特別区域推進本部決定(16年3月18日)