特区ビズ問題 「ふるさと選挙」関連の疑惑

一時期、原英史特区WG委員が運営する政治団体「土日夜間議会改革」は、株式会社特区ビジネスコンサルティング(特区ビズ)と住所・電話番号を共有していた。この件について、原氏は、政治団体の経理処理等を特区ビズに業務委託していた関係で対価を払って間借りしていたからだと説明している(毎日新聞2019年6月11日)。

しかし当時の特区ビズと原氏の動きを追うと、両者の関係がそれだけにとどまらず、特定の規制緩和や営利目的の特区事業を進める上で内部情報が共有され、緊密に連携していたことがわかる。特に「ふるさと選挙」と「民泊」の分野では顕著な連携が認められる。

本稿では、「ふるさと選挙」を取り上げ、問題点を整理する。なお、以下で度々言及している「地方議会ニュース」は、当時原氏が解説委員を務めていたニュースサイトで、現在は削除されているが、アーカイブページで確認すると、サイドバーには「土日夜間議会改革」のリンクが貼られている。また関連記事も度々投稿されていることから、地方議会ニュースと土日夜間議会改革は表裏一体の関係にあったといえる。また、「WARP」は国立国会図書館のアーカイブを指す。

(1)政策工房スタッフの関与

2015年6月5日、春の提案募集期間最終日、特区ビズはふるさと納税者に参政権を与える「ふるさと選挙」制度の導入を求め、2件の特区提案を出した(2016.9.11特区ビズ「お知らせ」ページ)。

追って9月25日、15年春提案に対する最初の関係省回答が公表され、特区ビズの春提案「ふるさと選挙」に対しては国家公務員に係る部分について人事院と内閣府から否定的な回答があった。一方、ふるさと納税を所管する総務省の回答は「調整中」だった(2015.10.2WARP回答公表ページ)。なお、回答公表日は国家戦略特区サイトには記載がないが、この募集回から窓口が一体化された構造改革特区のサイトで確認できる(構造改革特区第27次提案募集ページ)。

同じ9月25日、「土日夜間議会改革」は「土日夜間議会サロン」と称する会員制セミナーの翌月からの定期開催を告知。会員募集とあわせ、半年分(セミナー12回分)の会費として32,400円(税込)を募った。その際、第1回セミナーを10月14日に開催することも案内があり、テーマの一例に「地方創生をどう実現するか(特区活用など)」を挙げていた(地方議会ニュース2015.9.25記事)。この会員制セミナーについては、政治団体が6月から準備を進めていた(2015.7.26「土日夜間議会改革」トップページ)。

続く9月28日、特区ビズは、「宮崎県小林市議会議員と共同で行っていた国家戦略特区提案が内閣府国家戦略特区ワーキンググループのヒアリング対象案件に選定され、9月28日、ヒアリングでの正式提案を行いました」と報道発表した(プレスリリース提出資料PDF)。なお、この日は提案募集期間外だった。

この報道発表で特区ビズが「議員と共同で行っていた」とする提案は、上述の春提案を指すのだろうが、特区ビズの提案概要には共同提案者の記載がなく、実施予定地も「未定(調整中)」とあり、応募時点では議員との共同提案ではなかった。

おそらく実際は、特区ビズが単独で出した春提案について非公式に議員と調整があり、調整がついた段階で「ヒアリング対象案件に選定」され、ヒアリングの場で「正式提案」として受理された、という流れだったのではないか。だとすれば、非公式の提案が正式提案として提出される前にヒアリング対象に選ばれたことになり、公平・公正な行政手続きがあったとは到底言えない。

この提案については、翌日、地方議会ニュースが報じており、提案直後の議員にインタビューした動画提案資料を公開している(地方議会ニュース2015.9.29記事)。これは、地方議会ニュースが事前にヒアリング日時等の内部情報を把握していたことを示している。

当時特区ビズの広報・PR担当だった山本洋一氏は地方議会ニュースの解説委員もしていた(2015.10.19特区ビズ「会社概要」ページ)。内部情報の共有があったのは当然といえば当然の話ではあるが、ここで重要なのは、地方議会ニュースが原氏の政治団体と関係があったことよりも、山本氏が原氏の営利会社「政策工房」のスタッフだったことだ(地方議会ニュース2015年6月22日記事)。

毎日新聞が取材した際、原氏は「政策工房に関しては、(私が)国家戦略特区の委員をやっているので、一切その(特区)関連の仕事はやっていない」と述べている。しかしそれならば、山本氏の関与なしにどうやって地方議会ニュースは事前に内部情報を入手したのか、という疑問が新たに生じる。また、インタビュー動画の「記者」が山本氏だった可能性もある。

「ふるさと選挙」提案について、山本氏の関与があったことは否定できず、政策工房は特区の仕事は一切していないとする原氏の説明は矛盾している。

(2)総務省回答が15年9月25日に「調整中」だったことの意味

15年春提案に対する総務省回答は、長らく「調整中」のままだった。最初に公表が確認できるのは2016.7.3WARP回答公表ページで、回答ファイルは2016年6月13日に作成されているため、公表は16年6月中だったと思われる。

特区ビズの春提案に対する回答は末尾に2件ある。回答には、「参政権という基本的人権としての性質にそぐわない」、「(憲法第15条第3項の普通選挙の原則に)違反するおそれがある」、「特区として対応することはできない」等、否定的な言葉が並び、妥協の余地は感じられない。

仮にこの総務省回答が、他省の回答と同じく9月25日に公表されていたら、小林市議会議員は9月28日の共同提案を取りやめていただろう。コンサル料の額にも影響があっただろう。また、共同提案のプレスリリースには「今後の他地域の取組についても、適時公表してまいります」とあるが、他地域との話もこの時点で終わっていただろうし、新たに話をもちかけることも難しかっただろう。

裏を返せば、総務省回答が翌年6月に公表されるまでの間、特区ビズは「ふるさと選挙」提案を全国の自治体に売り込むことができたのだ。回答の遅れは、特区ビズにとって非常に都合がよかったといえる。

なお、2015.10.2WARP回答公表ページにあるとおり、15年9月25日の時点で回答が「調整中」だったのは、総務省(16年6月公表)、法務省(16年1月公表)、厚労省(16年12月公表)の三省のみで、そのいずれも特区ビズの春提案(ふるさと選挙、民泊)もしくは特区ビズがサポートした春提案(美容分野を含むクールジャパン外国人材)を含む。

15年春提案に対する回答をみると、「ふるさと選挙」は特区ビズの単独提案として記載されているが、春提案の正式版が議員との共同提案だったのであれば、単独提案として回答に記載があるのはおかしい。

回答に記載がない議員との共同提案については、関係省ヒアリングが10月8日に行われ、原氏もWG委員として出席している。その際、総務省は翌年の回答内容と同じく憲法第15条第3項や民主主義の基本といった観点から明確に難色を示している。

また同じ10月8日、特区ビズは、サイトのトップページで「インバウンド観光ビッグバンと地方創生特区~政府の特区提案募集は10月6日スタート、政策ツールをいかに活用するか~」と題する「10.22緊急セミナー」を告知。

その翌週14日には「土日夜間議会サロン」の第1回セミナーが無料講演と有料ディスカッション(参加費2000円)の二部構成で行われている。講師は原氏。講師紹介欄には「政策工房代表取締役」とある。テーマは、特区ビズの緊急セミナーとぴったり重なる「外国人観光客の急増と地方創生 いま自治体にできることは?」だった(地方議会ニュース2015.10.13告知記事)。

このセミナーの様子を映した動画の中で原氏は、「自治体にできること」の5つ目として「ふるさと納税」に触れ、ふるさと納税は企画次第でたくさん集められる、そのために特区を活用できる、「ふるさと選挙」という特区提案がある、などと話している。

つまり原氏は、セミナー前に提案実現が困難なことを知った上で、特区ビズの提案である「ふるさと選挙」を「自治体にできること」として宣伝したのだ。そこに良心は全く感じられない。

この件については更に深刻な問題もあるので、(5)で改めて詳しく取り上げる。

(3)政策工房との関係隠蔽

原氏によるセミナーの翌週、特区ビズは、2週間半前に更新したばかりの会社案内を、「10.22緊急セミナー」に合わせるように「特区biz_会社案内20151022」へと再び更新した(比較資料:2015.10.19特区ビズ「会社概要」ページ)。更新された会社案内およびウェブサイトの「会社概要」をみると、サービス内容として新たに「ふるさと納税の企画運営コンサルティング」が追加される一方、山本洋一氏の情報は削除されている。

山本氏の情報はなぜ削除されたのか。

この時点で特区ビズと土日夜間議会改革はまだ住所と電話番号を共有していた。また、「10.22緊急セミナー」のチラシにある特区ビズの「五島」氏と地方議会ニュース編集長の「五島知佳」氏は同一人物だろうと思われる。これらのことからすると、この削除によって隠されたのは、地方議会ニュースや土日夜間議会改革との関係ではなく、政策工房との関係だったといえる。

事業内容がほぼ同じ政策工房と特区ビズは、本来なら競合関係にある。たとえ特区提案については競合していなかったとしても、他の分野では競合している。そんな中、顧客情報を知る政策工房スタッフに競合他社での兼業を認めるなど常識的には考えられない。しかし原氏は、スタッフを兼業させ、内部情報を共有し、特区ビズと足並みを揃えて自らも動いていた。特区ビズは政策工房のダミー会社だったと考えるのが自然だ。

「10.22緊急セミナー」は、特区ビズにとっては顧客開拓イベントだったといえる。この日に合わせて作成された「会社案内」に追加された新規事業についても説明があったはずだ。原氏は、パネルディスカッション「インバウンド観光を巡る課題と解決の方策」でも「ふるさと選挙」等について言及したのではないか。

「ふるさと選挙」は、自治体がどこも手を挙げなければ提案の意味はなく、特区ビズにとって何の利益にもならない。原氏は、違憲の可能性を指摘されていながら、特区ビズの自治体探しに協力した。これが制度の周知活動だといえるのか。

また、特区ビズの「10.22緊急セミナー」の後まもなく、山本氏は、地方議会ニュースに「ふるさと納税、自治体が大臣通知を無視」と題する記事を投稿している(地方議会ニュース2015.10.28記事)。記事には、「本当の地方創生を目指すなら、ふるさと納税のあり方を考えなおすべき」として、「寄付者に参政権を与える「ふるさと納税議員」といった提案」に言及がある。

これだけの事実がありながら、原氏は、特区事業への政策工房の関与を否定しているのだ。

(4)ヒアリング隠し

10月30日(15年秋提案募集期間最終日)、9月に共同提案した市議会議員のうちの1人が再び特区ビズと共同で被選挙権年齢の引き下げを求めて特区に提案を出した(提案概要)。この提案について、特区ビズは、「特区biz_会社案内20160803版」の「提案実績」で「特区WGヒアリング済」としている。しかし、国家戦略特区サイトでその事実は確認できない。また、15年秋提案に対する省回答には特区ビズの単独提案として記載されている。

この提案は、2016年9月11日時点においても特区ビズが「公開特区提案」として議員の名前入りで掲載していたもので、提案概要は今もネット上に存在する。これまで原氏や八田達夫特区WG座長が繰り返してきた「正式提案が出される前の非公式ヒアリングだから非公表なのだ」という言い訳は成立しない。

提案者が非公開を希望していないのに、なぜ募集窓口で正式に受理した提案の存在が隠されているのか、なぜその提案のヒアリング開催事実を公表しないのか、説明が必要だ。

(5)「ふるさと選挙」の宣伝に使われた真偽不明の特区情報

セミナーの動画にある「ふるさと納税」の話の中で、原氏は真偽不明の特区情報に言及している。以下にその部分の原氏発言を記載する。

原:で、これも先ほど来、あのー、特区で新しいチャレンジをしていくっていうのが一つの手立てですよ、という話をしましたけども、あの最近おもしろい、提案をされている自治体がいくつかあって、えーとー、ふるさと…納税をした人達には選挙権とか被選挙権を与えちゃう、と。そういう仕組みを作ったらいいんじゃないかって、そういう提案をされているところがあります。で、これ実は、これも、あのー、今の制度では、あのー、本当はできない(動画終了)

原氏によると、この時点で複数の自治体が特区に「ふるさと選挙」を提案していたということだが、そのような事実は確認できない。特区ビズと議員の共同提案は、小林市が自治体として出したものではない。小林市議会の会議録でも同提案への言及は確認できない。それを置いても、この他には地方議員との共同提案すらなく、原氏のいう「いくつか」というのは全く根拠を欠いている。

仮に実際は「ふるさと選挙」を提案した自治体がなかったのであれば、原氏は虚偽情報を流布したことになる。

また仮に提案の事実も含めて非公表となっているだけで実際には提案した自治体が複数あったのであれば、原氏は内閣府の内部情報を「ふるさと選挙」提案の宣伝に利用したことになる。

あるいは仮に複数の自治体が検討はしていたが公式の提案には至っていなかったのであれば、原氏は特区ビズの内部情報を何らかの方法で入手した上、事実を偽って伝えたことになる。あるいは、特区ビズが内部情報を内閣府と共有していたのであれば、原氏は内閣府の内部情報を湾曲して利用したことになる。

いずれにしても不正、不当な行為であり、弁明の余地はない。

(6)官僚だったら刑事罰対象となっていた可能性

国家公務員については、国家公務員法第102条および人事院規則14-7により、「政治的目的」をもってする「政治的行為」が制限されている。これに違反した者は、同法第110条第1項第19号によって刑事罰の対象となる。

ここでは、「政治的目的」を「政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し又はこれに反対すること」(人事院規則14-7第5項第5号)に絞った上で、以下の「政治的行為」を念頭においている。

  • 「政治的目的のために職名、職権又はその他の公私の影響力を利用すること」(第6項第1号)
  • 「政治的目的をもって、賦課金、寄附金、会費又はその他の金品を求め若しくは受領し又はなんらの方法をもってするを問わずこれらの行為に関与すること」(第6項第3号)
  • 「政党その他の政治的団体の結成を企画し、結成に参与し若しくはこれらの行為を援助し又はそれらの団体の役員、政治的顧問その他これらと同様な役割をもつ構成員となること」(第6項第5号)
  • 「特定の政党その他の政治的団体の構成員となるように又はならないように勧誘運動をすること」(第6項第6号)

なお、「人事院規則14-7(政治的行為)の運用方針について」(昭和24年10月21日法審発第2078;最終改正: 平成27年10月28日職審-275)によると、第5項第5号にある「政治の方向に影響を与える意図」とは、「日本国憲法に定められた民主主義政治の根本原則を変更しようとする意思」をいい、「特定の政策」とは、「政治の方向に影響を与える程度のものであることを要する」とされている。

「ふるさと選挙」に関する関係省ヒアリングで、赤松俊彦総務省選挙課課長は、憲法第15条第3項が保障する普通選挙との整合性から難しいこと、また、選挙のあり方については民主主義の基本として議員立法において措置するルールになっており、閣法(特区法)での対応は難しいことを詳しく説明している。

原氏は法学部卒らしいが、赤松課長が懇切丁寧に説明した納税額を選挙の要件とする「制限選挙」に対して、それではない「普通選挙」という概念を理解せず、「最低限の普通選挙」という意味不明の概念まで持ち出している。私のような非専門家でも「最低限」とつけたら「普通選挙」ではなく「制限選挙」だろうと思うところだ。

そんな原氏のナンセンスはさておき、「ふるさと選挙」制度の導入を主張することは、普通選挙という「日本国憲法に定められた民主主義政治の根本原則を変更しようとする」ものに他ならず、その導入を特区で実現しようとすることは従来守られてきた民主主義の基本ルールに反することで「政治の方向に影響を与える」ことになる。これは、上述の「運用方針」にある人事院規則14-7第5項第5号の「政治的目的」に合致する。

原氏は、自身の政治団体で勉強会を企画し、特区WG委員・政策工房社長・地方議会ニュース解説委員という公私の影響力を利用して会員を募り、会費を求めて開いたセミナーにおいて、違憲の可能性を知りながら自治体の提案意欲を煽る発言をし、自身が関与する公的制度を利用して「ふるさと選挙」を実現させようとした。

まさに、原氏は官僚だったら刑事罰対象となる「政治的目的」をもって「政治的行為」をした、と言えるのではないか。

特区WG委員としての原氏の仕事は、自治体や事業を実施する事業者から要望のあった規制改革事項について関係省庁と折衝することだ。特定の特区提案を自ら自治体に売り込むことは、特区WG委員の仕事ではないし、制度の周知活動にも該当しない。それが特定の業者の利得につながることなら、尚更正当化できるものではない。

WGでの議論は、政策決定に大きく影響する。また原氏が議論に費やした時間に対しては公金から対価が支払われる。民間人であっても公職にあることに変わりはない。公的制度を公平・公正に運用してきたというのであれば、原氏は、数々の疑惑について説明する責任がある。