庁舎整備だけでも637億円(おそらくはもっと)かかるとされている「都構想」だが、維新の議論は、いかにして住民投票で賛成多数を得るかに終始している。大阪市を廃止・分割した後のことは「なるようになれ、したいようにしろ」という構えで、穴だらけの「大都市制度」が出来上がりつつある。
わかりやすく酷いのは、新たに設置されることになる区議会に関する議論だ。大阪市の廃止・分割でできる特別区には、それぞれ区長および区議会が置かれる。区割りとして維新が推す「4区B案」が実現すると、当然のことだが、首長は市長1人から区長4人に増え、議会も1つから4つに増える。ところが、維新によると、議員定数は増やさず、現行定数を各区に振り分ける、つまりは4つの区議会をそれぞれ大阪市会の4分の1前後の議員でまわすのだという。
維新は、首長が4人に、議会が4つに増えることを「課題解決のスピードが4倍に!」などと「都構想」の宣伝材料にしている。しかし、首長が提出した議案を議会において審議するのは議員だ。市が4分割されたからといって、議案件数が4分の1になるわけではない。各区とも7割減から8割減の人数で審議が円滑に進むという根拠もないのに、どうして「4倍速」と宣伝できるのか。
多くの大阪市民、特に「都構想はよくわからない」という大阪市民にとって、議員数が現状から増えるのか減るのかというのは大きな関心事だろう。議員数が増えれば、当然議会コストは増す。誰にとってもわかりやすい「都構想」のコストだ。「増えるなら都構想には賛成できない」という人も多いのではないか。維新もそれを肌で感じているからこそ「現状維持でいく」と言う。
松井府知事(当時)が「今の議会コストを上回るというのは、だめだろうという判断」と述べたとおりだ(2.22法定協議会)。そこには「今の議会コストを上回るというのは、それなら都構想はだめだと言われるだろうから、だめだ」という本音が透けて見える。さらには、「スタート時にこういう体制で…(あとで)特別区に議員を増やす権限もある」だの、「(増やすのは)特別区民が決めたらいい」だのとも言う。「後で増やせばいいんだから、今は現状維持で通せ」ということだろう。全く無責任極まりない。
「4区B案」に「現状維持」を適用し、現行定数83人を割り振ったときの各区の人口と議員定数は次の表のとおりとなっている。参考までに、府内で同じ定数を採用する市とその人口をあわせて示す。
人口 | 定数 |
大阪府内で同定数採用の市(カッコ内は人口) |
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第1区 | 60万人 | 18人 | 松原市(12万), 富田林市(11万), 羽曳野市(11万), 河内長野市(11万), 貝塚市(9万) |
第2区 | 75万人 | 23人 | 箕面市(14万) |
第3区 | 71万人 | 23人 | 同上 |
第4区 | 64万人 | 19人 | 摂津市(8.5万) |
特別区は、それぞれ単独で政令指定都市にもなり得る人口を擁するが、自治権限は中核市並みになるとされている。
全国市議会議長会が全国814市(東京23区を含む)を対象に行った市議会議員定数に関する調査結果(2017年12月31日現在)によると、58ある中核市の人口は19万人~64万人と幅があり、これに相関するように議員定数も27人~50人と幅がある。これら中核市と比較すると、4区の人口はいずれも最上位と同程度かそれを上回る規模だが、議員定数は最下位にも届かない。人口50万人以上の中核市7市に絞ってみると、議員定数は40人~50人(平均45.3人)と維新案の2倍以上だ。
確かに議員定数については、全国的に削減を求める声は多い。とはいえ、それは今ある議会の話であって、まだ存在しない議会について適正な定数を決めることとは全く別の話だ。当事者である区議会が存在しない時点で、非当事者が何の根拠もなく非標準的な少数体制を強い、体制づくりを大幅に制限することに正当性はあるだろうか。ましてや政令指定都市の廃止に伴う新たな体制づくりは前例がない。スタート時には区の条例を一から制定していく作業もある。大阪市の条例を基にするとしても、そのまま継承するのか、改正する必要があるのか等、審議が必要になる。そこへ新たな議案も加わる。それでも異例の少数体制で遅滞なく議会運営ができるというのであれば、その根拠を示すべきだ。
2.22法定協議会でも、当然、議員定数を「現状維持」とすることに強い疑問の声はあがっている。しかし維新は、「逆に市議会の定数も大幅に増やせという論調なのか」などと話をすり替え、4つの区議会の適正な定数は何かという議論には応じていない。
では、適正な議員定数は一体どう算出したらよいのだろうか。
近年主流となっているのは、常任委員会数×委員定数で決定する方法のようだ。常任委員会は、議案をより専門的かつ効率的に審査するため、所管事項を振り分けて複数設置されるのが一般的だ。また議員は、少なくとも一の常任委員になるものとされている(地方自治法第109条)。大阪市会を含む大多数の市議会と同様に1議員1委員会所属とする場合、常任委員会数×委員定数=議員定数となる。維新は、たったこれだけの検討すらしない。
逆に、議員定数を先に決めてしまえば、それによって設置できる常任委員会数は限られてしまう。「現状維持」とすると、大阪市会の6委員会に対して、例えば最も定数の少ない第1区では2委員会がやっとだ。後々、特別区議会が3つ以上の委員会を必要と判断しても、その時点でそれはできない。
この点を指摘されると、維新のある若手市会議員は、「新しい議会のあり方」として「全員参加型で、常任委員会を分割しない」ことを提案している。だが、そもそもそれでは非効率だから、複数の常任委員会に分かれて議論するのだ。市会議員なら、せめても大阪市会の説明くらいは読んでおくべきだろう。「全員が全委員会に参加する」と言った若手市会議員もいたが、それでは複数の委員会を同時進行できないし、そもそも複数の委員会をつくる意味はない。「常任委員会を分割しない」のと本質的に何も変わらない。
改めて指摘するまでもないが、それだけ支離滅裂になっても維新が「現状維持」に固執するのは、「適正な定数」では住民投票で勝てないとみているからだろう。「議員数が増えても、それを上回るメリットがある」と住民を納得させるだけの説明材料がないのだ。「10年間で1.1兆円の経済効果」が本当なら、議会コストが少々増加したところで何の影響もないはずだが、根拠の薄い数字に説得力はない。やはり「現状維持」は、大阪市民をはめる落とし穴にしか見えない。
「現状維持」は、コスト試算の穴でもある。「現状維持」だから議員報酬は増減なしとして、ランニングコストに含めていない。また、議場等の建設費については、北区を含む第2区は大阪市会のものを現状利用し、残る3区は議員定数に応じて新たに建設するものとして試算している。だが実際にそうなれば、無駄なランニングコストが増加し、将来的に新たな建設費用が発生することは必至だ。
例えば第2区では、大きな議場に100ある議員席をたった23人で使うことになり、光熱費等だけでも大きく無駄になっていく。新たなコストをかけて減築あるいは新築しなければ、ランニングコストの無駄は恒久的に続く。仮に後になって定数が倍増しても半分以上は無駄なスペースのままだ。結局は、将来的に議場を新築することになるだろう。一番無駄が多く、一番コストがかかりそうな「第2区」で「都構想」の支持者が多いのは皮肉だ。残る3区では、逆に、18から23の議員席を収容する程度の小さな議場を建てたとして、後になって議員を増やすには増築しなければ対応できない。3区とも最初に箱だけは標準並みにつくるというのであれば、定数も試算もデタラメ、ということになる。
「都構想」には、こうした億単位の無駄なコストが隠れている。「10年間で1.1兆円」の「経済効果」は、行政コストの削減によって生まれることになっているが、こんな穴だらけの「大都市制度」に、そんな「効果」は全く期待できない。
長くなってしまうので、その他の穴については次回取り上げたい。