新型コロナ 日本は本当に持ちこたえているのか

日本は本当に持ちこたえているのか、という疑念がある。日本で報告されている感染者数は他国と比べて非常に少ないが、それは単に検査数を抑えて感染者数を少なく見せているだけではないか、という疑念があるのだ。

この疑念について、専門家会議のメンバーでもある岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は、「それは誤解です。もし実際の感染者がずっと多かったら、原因不明の肺炎患者が増えてくるはずです。医療機関が緊張して診察している中で、そうした話、数字は出てきていません。」と反論している(“「コロナ、そこまでのものか」専門家会議メンバーの真意” 2020年3月18日 朝日新聞DIGITAL)。

しかし、この説明をきいて納得する人はあまりいないだろう。当初から指摘されている「感染力の強さ」が本当なら、日本のような緩い対策で感染拡大が防げるとは到底思えない。

前回記事で触れた医師も、3月中旬時点の状況として去年のことを思えば今年はむしろ肺炎患者が少ないくらいだとは言っていたが、「だから実際の感染者と報告数に大きな乖離はない」とは言わなかった。むしろ学級閉鎖の状況から「実際の感染者数はずっと多いだろう」と語り、「それでも肺炎で入院する患者は増えていないから、そこまで心配しなくてもよい」と言うのだ。ただし、高齢者や基礎疾患のある人はリスクが高いため、感染が疑われる人がハイリスクな患者の多い病院に検査に来るのは困ると付け加えた。

肺炎患者が増えていないのが本当ならば、日本は持ちこたえていると考えられる。ただもしそれが本当でも、その実態は、緩い対策で「なぜか不思議と」全国的に感染拡大が抑えられているということではなく、全国的な感染拡大はあってもハイリスク集団への感染が抑えられているから肺炎発症率と致死率が抑えられているということだろう。

前回記事にあるとおり、「全国休校」前に続いていた本年特有の学級閉鎖の状況からは、2月には既に多くの学校で感染が広がっていた可能性が高い。子供は感染しにくいという説もあるが、多くの子供が早い段階で感染し、重症化しなかったために感染が確認されなかったと考える方が自然だ。

2月25日発表の政府基本方針は、感染が疑われても軽症なら受診も検査もしないで自宅療養することを推奨しており、この時点で既に検査で感染者を漏らさず捕捉して感染を封じ込めようとはしていない。この方針は明らかに、重症患者が適切な治療を受けられる医療体制を維持することを優先している。

どう見ても実際は感染者数の実態把握を諦めて致死率を低く抑える方向に動いているのに、少ない検査数で感染動向が追跡把握できているかのように説明するから、全てのことに疑いの目が向けられるのだ。

すでにインフルエンザ死亡と肺炎死亡を毎週集計するインフルエンザ超過死亡迅速把握システムがあるのだから、せめて肺炎死亡を分けて週ごとに集計し、動向を把握できるよう公表してほしい。検査数が少ない分、そうした情報が補われなければ、「日本は持ちこたえている」と確信できない。

イタリアは、短期間で医療体制が崩壊してしまった。現地の医療従事者は、SARSやMERSのときのように新型コロナの感染者が病院を訪れるようになってから院内感染率が一気に上昇し、大惨事を招いたと指摘している。また、このような大惨事を避けるためには自宅療養を治療の中心におく方針転換が必要だと訴えている(“A plea from doctors in Italy: To avoid Covid-19 disaster, treat more patients at home” 2020年3月21日 STAT)。

アメリカでも多くの患者が病院を受診して検査を受けるようになると直ぐにイタリアと同じように院内感染が止まらなくなり、各地で都市封鎖が実施される事態となった。ニューヨークやカリフォルニアは既に封じ込めを諦め、検査対象を重症患者と医療従事者に制限して救命を優先する方針を固めた(“In hard-hit areas, testing restricted to health care workers, hospital patients” 2020年3月22日 The Washington Post)。

都市封鎖をせず、軽症なら受診も検査もしないで自宅療養するという方針の日本が、本当に「感染は広まっているものの、重症化率(肺炎発症率)・致死率は抑えられている状態」にあるならば、それは評価できることだ。また、それをデータで示すことができれば、イタリアの医療従事者の見解を裏付けることにもなり、検査の徹底や都市封鎖による封じ込めよりもハイリスク集団への感染防止による致死率抑制を優先する方が現実的かつ有効だと世界に向けて発信することもできる。

ある母親の話では、親たちは自分の子どもが地域の「感染確認第1号」になることを何より恐れているという。自分の子供が陽性と出てから他の子供の感染が確認されれば「あの子がうつした」と噂され、亡くなる方があれば「あの子のせいだ」と言われるのではないか。それが怖いと話す。多くの親は、既に市中感染は起こっていて、それでも持ちこたえていると説明された方がむしろ安心できるだろう。

少ない検査数で実態を把握できているはずもないのに「感染拡大は抑えられている。市中感染は起こっていない。」などと無理な主張を続けることは直ぐにやめてもらいたい。そして本当に持ちこたえているのであれば、それを信じられるように正しく説明してほしい。

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