新型コロナ 「全国休校」前既にあった感染拡大データ

※短期間で感染者が倍増していることを考えると、この記事後段の記述は単なる希望的観測だったと言わざるを得ませんが、これも一つの記録としてそのまま残します。

先日、ある医師から次のような話を聞いた。

1月末頃、学級閉鎖になったあるクラスでインフルエンザのような症状の生徒は15人もいたのに、検査で陽性と出たのは3人だけだった。陰性だった生徒は新型コロナに感染していたのではないか。

早速調べてみたところ、この話と整合するデータがあった。下のグラフにここ4年の第4週から第9週までの全国のインフルエンザ報告数(定点合計)と学校患者数の推移を示す。データは「感染症発生動向調査週報(IDWR)」および「インフルエンザ様疾患発生報告」から抽出した。

なお、学校患者数は、インフルエンザ様疾患の発生により休校・学年閉鎖・学級閉鎖の措置が取られた際、当該学校・学年・学級の患者数を計上したもの。インフルエンザ様疾患とは、高熱、咳、倦怠感等のインフルエンザ様症状を示す疾患を指し、検査によってインフルエンザと確定されていないものも含む。

ここ4年の動きを比べると、過去3年では学校患者数が定点合計の変化と同調して推移しているのに対し、本年においては定点合計が徐々に減少する一方、学校患者数は乱調に変化し2月に入ると高めの水準でほぼ横ばいに推移している。また第9週では、学校患者数が定点合計を上回るという例年にはない特徴もみられる。

インフルエンザ報告数の減少に相反して学校患者数が横ばいに推移したことは、この間学校等においてインフルエンザ様症状のある新型コロナウイルス感染者のクラスターが発生し、新型コロナの感染拡大が既にある程度進んでいたことを示している。

安倍総理が突如「全国一律休校」を要請したのは、第9週の半ば、2月27日のことだった。データの集計日や公表日から、おそらく第8週分の集計が出そろったのがこの日だったと思われる。学校での感染拡大が明白になり、あのような「政治判断」に至ったのだろう。

こう書くと「それならあの唐突な決定も仕方ない」と感じる人がいるかもしれないが、より詳しくデータを分析すれば「全国一律」とする必要はなかったといえる。

都道府県別の集計をみると、学校患者数の推移が乱調の地域もあれば、例年どおりの地域もある。例として、4道府県の定点合計および学校患者数の推移を下のグラフに示す。なお、北海道、大阪府の学校患者数は、それぞれ別掲の札幌市分、大阪市・堺市分を足した数値である。

グラフから明らかなように、北海道、大阪府では学校における多数のクラスター発生が疑われる状況だが、佐賀県、大分県は例年と特に変わりはなかった。

地域によって状況が大きく異なる中での「全国一律休校」は、社会へのインパクトを考えても暴挙に等しい。総理は都道府県別の集計を分析しないまま決定を急いだのだろうか。それとも分析した上で敢えてそれが必要だと判断したのだろうか。

総理が繰り返し述べた「瀬戸際」の「ここ1、2週間」が過ぎ、専門家会議は今月9日、国内の状況について「爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度持ちこたえている」との認識を示した。また、「新型コロナは暖かくなると消えるようなものではない。闘いを続けていかなければならない」とも述べた。

このとき具体的な根拠は示されなかったが、学校患者数の推移状況から判断すれば、確かにインフルエンザの流行時にみられるような短期間で定点の報告数だけでも数千から数十万へと一気に上昇する「爆発的な感染拡大」は認められない。今回感染拡大があったとみられる北海道や大阪府でも急激な増加ではない。したがって新型コロナの感染力はインフルエンザよりも弱いとみられ、「一定程度に収まっている」感はある。その一方、インフルエンザが下火になる時期になってもじわじわ増えていることから、「暖かくなると消えるようなものではない」ことが懸念される。

と、ここまでは、データと専門家の意見の間に大きな矛盾はない。

しかし、である。本当に今もまだ闘いモードで非常生活を続けなければならない状況にあるのだろうか。

岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は10日の日本記者クラブ会見で、致死率については「インフルエンザをちょっと上回る程度という印象」と述べた。この見解は、保健所が把握しているインフル報告数、インフル様患者数、肺炎死亡数等のデータに基づくものだろう。

国民には知らされていないが、新型コロナウイルスの感染力はインフルエンザほどではなく、致死率はインフルエンザをちょっと上回る程度と予測できるデータは既に蓄積されているようだ。それらのデータを基に「今後はインフルエンザ対策と同様の感染対策を続けながら平時の生活に戻ってよい」と判断できるのではないか。またそれならば、今後大量の検査をする必要もないだろう。「緊急事態」の判断にこれ以上時間をかける意味はあるのだろうか。

政府は、IOCやG7に対しては、東京五輪を予定通り開催すべく手元にあるだけの科学的根拠を示したのだろう。そうでなければ、巨大組織のトップや各国首脳が「予定通りの開催」を支持するはずもない。

安倍総理は、国民が状況を正確に把握して安心できるよう一刻も早くデータを開示すべきだ。